はじまりのころ

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 それは、冬の寒い日のことだった。  確か、1990年代の前半くらいだっただろうか。ソヴィエト連邦は、まだ存在していたかな?  それまで私は、別の家にいたらしい。  らしいというのは……正直なところ、自分でも記憶が曖昧なので、恐らくいたのであろうとしか言えない。  まあその。要は私は、捨てられたのだ。  捨てられる理由は、何となくわかる。自分は、綺麗な猫ではなかったのだ。無理もない。  私は、キジトラと呼ばれる種類の猫なのだけど。毛並みはぼさぼさ。毛の色も、黒と茶色がごちゃ混ぜ。尻尾も短くて、フックみたいな形にひん曲がっている。  そして、野良だけにガリガリに痩せていて、みすぼらしいことこの上ない。  そんな私が人によって保護されて、飼い猫になれたのは、この上ない幸運だった。奇跡と表現しても過言ではないだろう。  そのまま拾われずにいたら、まず間違いなく死んでいただろうから。  で。話を最初に戻すとして。冬の寒い日にどんなことがあったかというと……。 「にゃ~」 「この猫、すごい人懐っこいね」  私は木々の隙間から、芝生のある庭へと出た。確かそんな場所だった。  小さな、小学生くらいの男の子が二人いたので、私は、近づいていったのだ。  私は元飼い猫だったから、人に対して警戒心などまるでなかった。  とにかく足元にまとわりついていた。絶え間なく、くしゃみをしながら。 「くしゅんっ。くしゅんっ」 「風邪ひいてるのかな?」  私を一人にしないで。  確か、必死にそう思っていたはずだ。
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