第一章:似た者同士

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   2  その後、二人は音楽室で昼食を共にした。翼は何も話さなかったし、彩夏も何か訊いてくるわけでもなかった。  昼食を食べ終わった後、翼は何もする気が起きなくて音楽室の床に寝そべっていた。新学期が始まってすぐのこのご時世、クーラーなんて必要ない。  意味もなく天井を呆けて見ていると、またスマホが震えた。今日だけでいつもの十倍近くは震えている気がする。いつもは良平との与太話や成瀬姉妹との戯言(たわごと)の言い合い程度くらいしかしないから、なかなかイレギュラーなことだ。  相手は彩夏だった。  〈寝てました?  声で返事をするのが何だか面倒だったので、翼も「起きてるよ」とメッセージを打ち込んで送信する。彼女は翼を気遣ってか何なのか、声で返事をしなかったことを良いとも悪いとも言わなかった。  ピアノはいつからやっているんですか?  気が付いたらいつも弾いてた  ピアノ以外の趣味はあったんですか?  なかった  一つも?  一つも  友達と遊ぶことは?  それは普通にあったよ。だけど月に三回あればいい方だったかな  その後か何度もやり取りを繰り返しているうちに、こんな話になった。  〈ツバサさんは、好きな人とかいないんですか?  それはさすがに変化球過ぎて、翼はぶっと吹き出してしまう。 「は、はあ? 何言ってんの急に……」  〈やっとしゃべった(笑)  〈無理に私に合わせなくて良いですよ? 「いや、別に合わせたわけじゃ……」  〈じゃあ、なんでですか?  なんで? そう聞かれると分からない。 「それ聞くのはずるいでしょ……」  〈そうでしょうか?  明らかに楽しんでいる様子の彩夏がピアノの近くに見える。  〈それで、好きな人はいないんですか? 「いないよ」  そんなの、いた(ためし)がない。  〈私はいますよ  何の報告だろう。今日顔を合わせたばかりの人にそんなこと、普通は言わない。 「あぁ、そう」  翼は言いながら立ち上がる。そろそろ昼休みが終わる時刻になっていたからだ。  〈あ、もう昼休み終わりですね  彩夏はそれを翼に送ってくるなり、足早に音楽室を出ていった。その足取りはとても軽かった。何がそんなに嬉しかったんだろう。  まあいいや、考えても分かることじゃないし、僕もそろそろ帰ろう……。  音楽室を出て教室へ戻ると、ちょうど昼清掃の時間になった。 「お、翼帰ってきたか」  席が翼のすぐ後ろの良平に真っ先にそう声を掛けられる。
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