第一章:似た者同士

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 再び向けられたスマホにはチャットメールの画面が表示されていた。 『何も聞かないでください』  意味深な言葉だった。 「は?」  彼女はまたスマホの上で指を走らせる。 『何も聞かないでLINEの交換をお願いします』  何が何だかまるで見当がつかないが、そこまで言うなら……。翼もポケットからスマホを取り出し、LINEのQRコード読み取り画面で、彼女がいつの間にか向けてきていたQRコードを読み取った。不思議な経緯(いきさつ)で初対面の少女とLINEの交換をしてしまったことに首を傾げていると、早速彼女の方からメッセージが送られてきた。「サヤ」とあった。  サヤ〈ありがとうございます    〈それと、ごめんなさい    〈いきなりで戸惑いましたよね……  三件連続でそう送られてくる。気休めにしかならないくらいの安っぽい言葉を、翼は打ち込んで送信する。  ツバサ〈大丈夫だよ  送った直後、彼女――サヤの方から「あなたは普通にしゃべってください」と送られてきた。 「あ、そう。あの、君の名前って……」  言い終わらないうちに彼女の方からメッセージが送られてきた。フリック入力だとしても、打ち込むスピードが異様に早い気がする。  〈はい、速水(はやみ)彩夏(さやか)と言います  やはり彼女の名前らしい。LINEアカウント程度に偽名を使う人がいるなんて、見たことも聞いたことも無いが。  また彩夏の方からメッセージが送られてくる。そこには「一方的にはなりますが、まず私のことを説明させてください」とあった。 「説明?」  彩夏は頷く。メッセージはさらに続く。  〈まず、どうして私がこんなに面倒なことをしているかについてです  〈きっとツバサさんは、「普通に話せばいいのに」と思っているはずです  言い当てられて顔が引きつる。翼が苦笑すると、それを見た彩夏も少し笑った。  〈良いんです。そう思うのが普通ですから  〈話を戻しますね  もう何度もそうしたように、彩夏がスマホを操作してメッセージを送ってくる。  〈私、声が出ないんです 「…………え?」  どういう、ことだろう。声が、出ない?  声が出ない。それはつまり失声(しっせい)症ということだろう。だが、齟齬(そご)がある。どうして声が出ないのに歌を歌えるんだ?  いやいや、それはおかしいとかぶりを振る。だって彼女は、今しがたまでここで「スカーレット」を歌っていたじゃないか。  訳が分からなくて唖然(あぜん)としている翼のスマホ画面に、彩夏からの言葉が続く。  〈歌っている時だけは平気なんです  〈でも、それ以外の時はどれだけ頑張っても出なくて……  〈自分でも原因が分からないままなんです
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