バニラの大地は硬い

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バニラの大地は硬い

 その日、私が名古屋行きの新幹線に乗ったのは、帰社のためだった。東京の本社にちょっとした届け物があり、それを届けるために私の住まう名古屋から東京に出張という形で上京したのだった。  その届け物が終わったのは昨日の夜のこと、東京本社より名古屋支社に届け物のメールが来たのは終業時間ギリギリ。極めて迷惑な話だが、火急を要するとのことで、私が貧乏くじを引かされて夕方の新幹線に乗って上京させられた。  お届け物そのものはすぐに終わった、すぐに新幹線に乗って帰ろうと思ったのだが「少しだけ仕事を手伝ってくれ」と要請されたために本当に少しだけ仕事を手伝った。少しだけと言っても数時間ぐらいはあったと思う。その結果、時間は夜の十時を回り、名古屋行きの新幹線の終電を過ぎてしまった。そもそも、新幹線の終業時間そのものが夜の十時だ。  帰る足を失ってしまった…… しかし、私は明日の朝には勤め先の名古屋支社に戻らなければならない。それを東京本社の上司に言ったところ、何ともブラック企業らしいものの言い方をされた「今からなら夜行バスまだ買えるでしょ?」と。名古屋から東京に遠路はるばる来させて仕事まで手伝わせておきながらこの対応は鬼か何かだろうか。  さすがに当日夜に夜行バスを取ることはできないだろう「発車時刻直前まで買えるってさ」と、上司が含み笑いで言う。私は思わず苦笑いをしてしまった。上司はバス会社に一人分の予約を取ろうとするが、夏休みの時期的に名古屋から東京への下りの夜行バスはどこも満席であった。上司は残念そうな顔をしながら「仕方ないな、明日の朝イチの新幹線で帰れば間に合うだろ?」と、宣う。新幹線代出すのをケチったのだろうか。朝イチの新幹線は早朝六時が始発、名古屋着は七時三十分頃……私の会社は名古屋駅近くのオフィス街。普段の出勤よりも早く会社に出勤出来てしまう。  最低(パーフェクト)だ。その後、東京本社の仮眠室で日が昇るまで横になった。仮眠室と言うものは実に眠りにくい。枕は硬いわ、シーツもどことなくボロい、服装も背広のジャケットを脱いだだけのサラリーマンスタイル。 起きては少し寝てを繰り返す羽目になり、安眠することが出来なかった。
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