第1話 轟木町

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第1話 轟木町

 2015年5月7日午前9時、東京都練馬区。  今日は、親が久々に休みが取れたということもあり、ゴールデンウィークは終わってしまったものの、両親とともに旅行に行くことになった。本来なら、ゴールデンウィークが終わった直後のこの時期に旅行など、中学生である俺にとってはあり得ないことであった。そもそもな話、5月の中頃から中間テストが始まるので、遊び歩くよりも、学校で勉強をしたいところだ。 「修也ー。準備は出来たかー?」 「ああ。待ってよ、父さん」  父さんが扉越しにノックをしてから話しかけてきた。  今回は、ゴールデンウィークでずっと仕事をしていた父さんが、せめてものお詫びということもかねて、父さんの生まれ故郷である、某県にある轟木町という町へと向かうことになっていた。ちょうど1週間後にお祭りもあるということで、それに合わせて出かけるのだが、それなら来週行けばいいのでは、と思ったりもしたが、今年は手伝いをするということもあり、早めに向かうのだそうだ。  父さんの生まれ故郷ということもあり、じいちゃんやばあちゃんが住んでいた家に泊まることになっている。 「お待たせ、父さん」 「よし、じゃあ行こうか」  車にはすでに母さんが助手席に座っていた。  俺は、荷物を荷台に詰め込んでから、車の後部座席に乗り込んだ。荷物とは言ってもせいぜい1週間くらいなので、そこまで荷物は多いわけではない。  父さんが玄関の鍵を掛けて駐車場の門も閉めた後、運転席に乗り込みエンジンをかけた。 「よし、お前たち、準備はいいかい?」 「うん」 「さ、行きましょう」  2人が返事をすると、父さんはクラッチを切って1速につないだ。父さんも母さんも、せっかく免許はマニュアルで取ったのだから、ということで2人とも車を運転するなら絶対マニュアル、というようになぜかマニュアル車に拘っていた。  練馬インターから関越自動車道に乗り、白椛インターへと向かった。順調に進めば白椛インターには大体2時間ほどで着くはずが、この日は事故と故障により、なんと3時間もかかってしまった。10時頃に家を出て、父親の実家がある町には16時くらいには着くハズであったが、先に説明した交通事故の影響で、18時にまでずれ込んでしまった。  父さんの実家に到着すると、いつまで経っても来ない息子夫婦と孫を心配したのか、ばあちゃんとじいちゃんが玄関先に立って、心配そうにオロオロとしていた。2人は、俺たちの車が来たことに気がつくと、安堵の表情を浮かべた。 「おお、おお。よう来なすったなぁ」 「じいちゃん、ばあちゃん。こんばんは」 「うんうん。修くんは元気だねぇ」  じいちゃんとばあちゃんはニコニコしながら、俺の頭をなでてくれた。もう中学生なんだから正直小っ恥ずかしかったが、久々に会えて嬉しかった。今年の正月は、父さんの仕事が忙しかったこともあって、じいちゃんとばあちゃんの家に来ることは出来なかったので、会うのは1年以上振りになる。 「お義父さん、お義母さん、お世話になります」  母さんが深々と頭を下げた。それを見たじいちゃんとばあちゃんは、俺に向けていたのと同じようにニコニコとしながら「よく来てくれた」みたいなことを言っていた。  この辺りの道路は舗装されており、それなりに街灯はあるものの、それでも十分な明るさがあるとは言えず、この日もすでに当たりは真っ暗闇になっていたので、その闇に少しビビりながら、俺たちは家の中へと入った。 「いやぁ、もう少し早く着くと思ったんだけどなぁ」 「何かあったんか?」 「事故だよ、事故。来る途中でね」 「ほー。大丈夫だったかい?」  テレビを付けると、その時の事故の様子が放送されていた。大型車のスピード超過と居眠り運転による玉突き事故である。故障して路肩に停車していた車に、大型トラックが突っ込み横転して停車。後ろから来た車は止まりきれず、そのまま横転したトラックへと突っ込んだという。この時、10台を巻き込む大事故となった。死者3名、負傷者16名の大事故である。この時亡くなったのは、とある一家であるらしいが、顔面がグチャグチャに潰れており、また、事故の影響で火災も発生したため、身元を証明するものが全て無くなってしまったらしく、警察は身元の特定を急いでいるそうだ。 「ああ、これだよ、これ」 「ほー、怖いのう」  5人は夕ご飯を食べ、明日以降の準備に備えてその日は寝ることにしたのだった。
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