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第10話 2人の警察官
翌日、5月11日午前11時、警視庁・地下駐車場。
この日、警視庁捜査1課の合同捜査会議が行われ、警視庁から三峯、林の両警部と捜査官が数人、石動警察署へ出張することが決定した。合同捜査会議から1時間後の現在、今回出張を行う者はみな、ここ、警視庁の地下駐車場へと集まっていた。
「よーし、全員揃っているな」
「三峯警部。あなたは、あまりやる気がないように思えましたが」
「俺だって警察官だからな。やれと言われたらやるさ」
「ふっ」
三峯と林たちは、4台の覆面パトカーで石動警察署へと向かうことになった。その道中の高速道路では、先日発生した玉突き事故の撤去作業が未だに行われていた。
「・・・・・・」
「気になりますか」
「・・・・・・ああ。あれから4日だ。現場検証が終わってないわけではないだろう。ただの事故で、撤去にここまで時間がかかるものなのか?」
「さぁ、実際にどれだけの時間がかかるかはわかりませんが、あとで公団に聞いてみますよ」
「・・・・・・ああ・・・・・・」
三峯と林は、別に仲が悪いわけではないのでそれなりに話をするが、運転席と助手席に乗っている刑事は、どことなく居心地の悪さを感じていた。
それからしばらく車を走らせ、一行は石動インターチェンジへと到着した。石動警察署へはインターチェンジを降りてから40分ほどで到着する。
石動市は、総人口37万人を数える一般市で、中規模都市である。市街地はそこそこ整備されているものの、ところどころに田園風景が残る。
「いいところですね、ここは」
「ああ。長閑な町って感じがするな」
それからしばらくして、一行の乗った4台の覆面パトカーは、石動警察署の正面玄関へと横付けした。正面玄関前は、ホテルのように車での乗り付けがしやすいようになっている。
同日14時40分、石動警察署。
「ここが、石動警察署か」
「聞いていたよりも立派な建物ですね」
「これはこれは! お待ちしておりました! ようこそようこそ! 私、当警察署の署長を務めています、菱木、と申します」
車を降りると、そこそこ年がいってそうな男が、玄関から出てきて笑顔で話しかけてきた。
菱木警視正。ノンキャリアでありなが、地方警察署の署長にまで上り詰めた、現場たたき上げの有能な警察官である。最も、すでに50歳を超えていることもあり、これ以上の昇進はなく、また、転勤もないため、退官するまで石動警察署の署長である。
「菱木署長。署長の方が階級も上ですし、年も上です。我々のような若造に、気を遣う必要はありません」
「そうはいきません。私は、ノンキャリ。あなた方はキャリアなのです。例え階級が私の方が上であったとしても、立場が違いますから」
そう言って気を遣うのをやめないので、三峯と林はヤレヤレといった感じで顔を見合わせた。
三峯と林たちは菱木署長に連れられ、警視庁と県警の合同特別捜査本部が置かれる第1大会議室へと向かった。これは、合同捜査とは銘打っているものの、あくまでも石動警察署管内で発生した殺人事件を主に捜査する。そのため、基本的には、石動警察署、もとい、県警側に主たる捜査権があり、三峯や林たち警視庁の捜査官は、許可されたエリアしか捜査ができない。
ドアを開けて中に入り、すでに待機していた石動署と、県警本部から派遣されてきている捜査1課の捜査官たちの間を通って一番後ろ側にある、警視庁から派遣されてきた捜査官用の席へついた。
「それではこれより、警視庁との合同特別捜査会議を行う」
三峯や林たちが席に着くと同時に、モニターの前に座っている捜査本部長が捜査会議の開始を宣言した。それからは捜査会議は滞りなく進み、警視庁で聞いた事件の話が終わったところで、新たな議題へと移った。
「では、昨日発生した捜査官の殺害事件について」
「はい! 殺害されたのは、石動警察署刑事課強行犯係所属の、荒木聡汰巡査部長29歳」
「死因はまだわかっていません」
「それはなぜだ」
「では、現場の写真をご覧ください」
一人の捜査官がそう言うと、会議室前のモニターに、写真が映し出された。
その写真には、生首が写っていた。もっと正確に言うと、生首しか映っていなかった。
「被害者の首から上しか見つかっておらず、死因を特定するのは困難、とのことでした。また、現場からは遺留品は見つかっていません」
「石動病院の地下駐車場で発見された、荒木刑事の車からは、証拠となりそうなものは一切発見されませんでした。また、駐車場に設置されていた監視カメラの映像にも不審な点は見当たりませんでした。以上で、荒木刑事の報告を終わります」
最後に一言付け足して、報告した捜査官は席に座った。
捜査官が席に座ったあと、本部長が一言二言訓示を出して、この日の捜査会議は終了となった。
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