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第11話 平和?な日常
同日(5月11日)、午前9時半ごろ。
この日も、祭りの準備は続けられた。一昨日、昨日と2日連続で死体が見つかってはいるものの、祭りの進行には影響がない、と判断したためである。仮に影響があったとしても、全国的に宣伝してしまった以上、今さら中止するわけにもいかないが。設営そのものは、今日中には終わる予定で、明日は予行演習、明後日は前日祭が催される。
「よーし、そのままそのまま・・・・・・。はい、オッケー」
「ふぅー、多いっすねぇ」
「いや、手伝ってくれて助かるわ」
「いえいえ。これくらい、余裕っすよ」
若干チャラい感じの男と、自治会長の美神が何やら大きな荷物を持ってきた。火気厳禁と書かれているので、恐らく祭りで使うカセットボンベだろう。
大型のボンベを持っている人はそれを持ってくるが、持ってない人のために、自治会としても決して拒んでいるわけではない、という意思を示すためにも準備する。
「ここでいいっすか?」
「あー、いや。最近、何かと物騒だから、集会所に運んでおいてくれ」
「うぃーっす」
貨物用のバンの荷台にパンパンに積んできたカセットボンベを、チャラい感じの男がテキパキと集会所の中へと運んでいった。集会所は、すでに半分のスペースを流し人形本番で使う人形が置かれていたため、男は邪魔にならないように、玄関入ってすぐのところに重ねて保管することにした。
「うー、さぶっ」
5月の中旬頃ということもあり、暖かくなってきたものの、まだ衣替えには少し早く、肌寒い日がまだまだ続く。そんな中でも、この集会所の中は冷房がつけられており、体感的には10度くらいしかないように感じた。なぜこんなに寒くしているのか気にはなったが、気にしても仕方がないと思い、気にするのをやめた。
「会長ー、運び終わりましたぜー」
「おう、ご苦労さん。ほれ、吸うか?」
「あ、それじゃあ」
美神にタバコを渡され、男は自治会長のタバコに火をつけたあと、自分のタバコにも火をつけた。
「いやぁ。それにしても、いい町っすねー、ここは」
男は、口から煙を吐きながらそんなことをつぶやいた。それを聞いた美神も煙を吐いた。
「ああ、いい町だよ。ここは」
「空気もうまいっすからねー。都会の喧噪とは、完全に無縁って感じっすわぁ」
「ふっ。ああ、そうだな」
「祭り、絶対成功させたいっすね。この町の人のためにも!」
「ああ」
2人は、河原に座ってそんな他愛もない話をしていた。祭りの当日、本番まではあと3日だ。ここ数日、明らかにおかしいことが起きている。これが、祭りの当日も起きないとは限らない。そう考えた2人は、当日に向けてより一層気を引き締めるのであった。
同日午前10時、緑川家。
ここ数日続いた祭りの準備も一段落し、俺は部屋でゴロゴロしていた。帰ったら色々とやることもあるが、残り少ないここでの平和な日常を堪能するかのように、ゴロゴロしまくっていた。
しかし、やることがないと非常に暇である。祭りの準備をしている間は、色々とやることがあったので、決して暇することはなかったものの、今日から当日まではやることが全くない。今日を含めて4日だ。
「父さんはまだ手伝いがあるって言ってたし。俺は何するかなぁ」
ここでずっとゴロゴロしててもいいが、こうもやることがないと、身体がなまってしまいそうだ。ゲームなんて持ってきてないし、この家もじいちゃんばあちゃんしか住んでいないから、ゲームなんてものはない。さすがにテレビはあるが、昼間は面白い番組なんてやってるはずもなかった。
「仕方ない。暇だし、手伝いにいくか」
むくりと起き上がり、何か手伝うことがないかを聞くために、祭りの運営テントへと向かうことにした。
俺の家から、祭りの運営テントまではそんなに離れているわけではなく、歩いて30分ほどの距離にある。そこからさらに5分ほど歩けば川だ。
運営テントへ着くと、大人たちが忙しそうに動き回っていた。その中で、自治会長の美神がいたので、声をかけた。
「美神さん」
「ん? おう、坊主。緑川さんところの。どうしたんや?」
「暇なので、何か手伝うことがないかなーって」
「ん? そうやなぁ。テントの設営は終わっとるし・・・・・・屋台を並べんのは、前夜祭前やしなぁ」
うんうん唸りながらも、美神は何かを思いついたのか、手を叩いた。
「せやっ。それやったら、集会所の中を掃除しよか」
「え、掃除、ですか?」
「せや。ボンベやら人形やらで結構散らかってしもうたからなぁ。ここいらで一度整理して、明後日の前夜祭に備えなあかんねん。せやけど、わしらは会議とかあって忙しいから、出来る人とかおらんねん。代わりに頼めんか?」
「・・・・・・まぁ、いいですけど。どうせ暇だったので」
「おー、さよかー。よかったよかった。せやったら、頼むわぁ」
こうして、修也は集会所の中を整理整頓することになるのであった。
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