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第15話 お祭り当日
日付は変わり、5月14日、午前10時。轟木町。
とうとう、お祭りの日がやってきた。一応は神聖な行事ではあるものの、人が集まるところにほぼ確実に集まるのが、お祭り好きな人たちと、屋台である。元々、大坂夏の陣にて亡くなった人の慰霊の為に行われていたものが、いつしかお祭りに変わったのが、この「流し人形」である。
お祭り当日は、町を挙げてのお祭りということもあり、色々なところから祭り囃子が聞こえてきた。すでに祭り好きな人たちが集まり、屋台もすでに開いているところが多かった。
先日に発生した、2件のショッキングなニュースは報道されたものの、致命的なダメージには至らず、人はそこまで減らなかった。
石動警察署からは、地域課や交通課などの警察官が交通整理などを行うために派遣されており、前夜祭でもなぜかかり出された、刑事課の面々もいた。
「うわぁー、すごい人だね」
「ああ、壮観だな」
流し人形のメインである、人形流し自体は陽が完全に没してからの、19時頃から行われるが、お祭り自体は9時頃から始まっている。色々な地方から人が来るということもあり、早めに開始することにしたのだ。去年までは15時頃のスタートだ。
「あれ、何あれ?」
「ん? ああ、フリーマーケットだな。リーフレットによると、町の3箇所でやってるらしい」
俺が指さした先には、レジャーシートを引いて、その上に服や小物などを並べている人と、それを見ている人がいた。
今年から始まったこのフリーマーケットは、誰でも参加することができる。自分にとっては要らないものでも、他人にとっては欲しいものだったりするため、こういったフリーマーケットは人気である。町のほぼ中心部にある、轟木町立小学校とその隣にある轟木町立中学校、轟木町自治会公園。そして、轟木町河川敷公園の3箇所で行われている。
父さんが持っていたリーフレットは、昨日の前夜祭で、美神自治会長にもらったもので、昨日からホテルのロビーや案内所、鉄道駅に設置されており、自由に持って行けるものだ。A3ほどのサイズと、そこそこ大きいが、片面には轟木町の地図が、裏面には今回の祭りの歴史や、見所など様々なことが書かれていた。
「お。小学校と中学校のフリーマーケットだと、おもちゃやゲームを中心としてやってるらしいぞ?」
「本当!? 行ってくる!」
「お、おい。車に気をつけるんだぞー!」
俺は、小学校と中学校でやっているフリーマーケットを見るために、父さんや母さんたちから一度別れて向かうことにした。全員スマホを持っているから、問題はない。
「全く」
「修ちゃんは、本当に元気ねぇ」
「ああ。でも、元気すぎるのも困りものだな」
「子どもだからね。遊びたい盛りなのよ」
「・・・・・・いや、お前が言っても説得力ないぞ」
「え!」
敦也は、祥子(修也の母親)が頭につけたお面や、いつの間に買ったのか、両手に持つたこ焼きや焼きそばを見てあきれた。祥子は、修也と同じようにお祭りが大好きで、修也は祥子のお祭り好きの血をモロに引いているといえる。
「しかしまぁ、祭りのメインイベントは19時過ぎだってのに、なんでこんな時間から集まるのかねぇ?」
今の時間は11時過ぎだ。メインイベントである、人形流しまであと8時間ある。有名な観光名所が轟木町にあるわけではないので、こんな早くからお祭りに来ても、すぐにやることがなくなってしまう。お祭りの会場自体は、轟木町のほぼ全域にわたっているためかなりの規模だが。
「ああ。なんか、色々な路上パフォーマンスや、学校でゲーム大会とか開かれてるらしいよ」
「なるほど」
リーフレットを見てみると、確かに学校ではゲーム大会が開催される旨が書かれていた。中学校の校舎では、お化け屋敷もあるらしい。
「お、あそこ空いてる」
「あー、やっと座れるー」
「母さん、大丈夫かい?」
「ええ、ええ。大丈夫ですよ」
およそ100メートルごとに、休憩できるようにスペースが取られているとはいえ、ここまでの人の入りは計算外だったのか、明らかに休憩スペースは足りていないようで、縁石やガードレールに座ったり寄りかかったりして休憩している人も見受けられた。
「お父さんも来れればよかったんだけどねぇ」
「お義父さん、仕事で疲れちゃったって言ってましたものね」
「まぁ、仕方ないさ」
人形を作るのに疲れたのか、修也の祖父にあたる、俊蔵はお祭りには来ていなかった。
「もぐもぐもぐ」
「食い過ぎじゃね」
「お祭りの時に食べる焼きそばとかって、何でこんなに美味しいんだろう」
「それ、修也も同じこと言ってた気がする」
3人は、少し早いお昼ご飯を食べてから一度家へ戻り、夜の人形流しに備えることにするのだった。
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