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第17話 流れてきたもの
数体の人形が、引き連れるような形で流れてきた人形の後ろには、イカダがあった。人形で作られたロウソクがイカダの外周に沿うように、ビッシリと立てられており、その中央には、一人の人間が横たわるように乗せられていた。その人間は、死者が棺桶に入れられた際に取るように、胸の前で手を組んでおり、見た目からも異様さが伝わってきた。
「おい、あのイカダを引き寄せろ!」
「は、はい!」
近くに来ていた、林警部と三峯警部は、他の警官たちに命じてイカダを川岸まで引き寄せた。引き寄せられたイカダに乗っていた人間は、顔が完全に潰されており、誰なのか判別が出来なかった。
「これは・・・・・・」
「顔が潰されていますね・・・・・・」
「ああ」
「とりあえず、河川敷公園は封鎖。署へ連絡してください」
「は、はい!」
周囲に居た警官たちは、林警部の指示で直ちに河川敷公園を封鎖し、石動署へ連絡をした。
林警部が警官たちに指示を出している間、三峯警部は遺留品のチェックを開始していた。これまでに発見された遺体と違って、身体の一部がない、ということはなく、顔が潰されて識別不能なこと以外、五体満足だ。それに、他の遺体と比べ、遺留品も多く残されていた。
「ん? これは・・・・・・」
遺体が着ていた上着の内ポケットの中から、一通の封筒を見つけた。封筒を開けて中を見てみると、非常に綺麗な字で、今回この町で起きた、二つの事件においての自白と、その責をとって自殺を選ぶ旨が書かれていた。
「・・・・・・」
「おや、どうかしましたか?」
警官たちへの指示を出し終えた林警部が戻ってきて、三峯警部に話しかけた。すると、三峯警部は立ち上がって林警部に遺書を渡した。
「これは?」
「遺書だ。今回、この轟木町で起きた事件についての自白。その犯してしまった罪に対する自責の念。そして、自殺を選ぶ、ということが書かれている」
「ふむ」
林警部は、三峯警部から手渡された遺書を、隅から隅までしっかりを目を通し、顎に手をあてて考えるようなポーズを取った。少し考えた後に、口を開いた。
「・・・・・・この遺書を信じると?」
「それを決めるのは、俺たちじゃねぇ。上だ」
「それは、その通りですが」
「とりあえず、その遺書は本部へ送る」
「それは、鑑識が来て、現場検証が終わってからですね」
「ああ、そうだな」
三峯警部は、林警部の言葉に対して頷いてから、タバコとライターを懐から取り出して火をつけた。このあたりは、喫煙が禁止されているわけではない。意外にも、灰皿は至る所に設置されていた。
三峯警部は、タバコに火をつけてから、周囲を見回した。すると、端っこの方で座っている、一人の中学生を見つけた。タバコを口にくわえたまま、三峯警部はその中学生に近づいた。
「やぁ、緑川修也君」
「あ・・・・・・」
俺は、三峯警部が近づいてきたことに気づいていなかった。それゆえ、いきなり話しかけられた時はビクッとしてしまった。
「どうしたんだい? お父さんやお母さんたちは?」
「それが、来てないんです。人形流しが始まるくらいに来るって言ってたのに・・・・・・」
「来てない、か」
「警部!」
「・・・・・・そうか、わかった」
三峯警部が話をしていると、一人の警官が小走りでやってきた。小走りでやってきた警官は、三峯警部に耳打ちをしたあと、今度は林警部のもとへと小走りで去って行った。
「恐らく、今日の祭りはこれで終わりになるだろう。夜道は危険だから、俺が送っていくよ」
三峯警部はそう言って、俺の手を取った。別に拒否する理由もなかったし、回りの人の話からも、お祭りは中止となるのが目に見えていたので、俺は三峯警部と共に、家へと帰ることにした。
「警部、どちらへ?」
「ん? ああ、この子を家まで送ってくるよ。お父さんもお母さんも、来てないらしいからね」
「そうですか。聞いているとは思いますが、1時間後に本部長がいらっしゃいますので、それまでにはお戻りください」
「ん、了解だ」
河川敷公園から離れて、俺は三峯警部とともにおばあちゃんの家へと向かった。3人とも来てなかったということは、もしかしたら疲れ果てて眠ってしまったのかもしれない、そう言って三峯警部は俺のことを励ましてくれていた。別にそこまで凹んではいないが。それから20分くらいたち、俺と三峯警部は、家へとたどり着いた。
「あ、ここです」
「ここ? 真っ暗だけど・・・・・・」
「本当だ」
俺と三峯警部は、玄関口に向かい、玄関の鍵を開けて中に入った。そもそも、21時ぐらいなことを考えれば、すでに寝ている可能性もあるため、別に家の中が真っ暗なのは別に訝しむことではないかもしれないが。
鍵を開いたドアを開けて、三峯警部は俺とともに中へと入った。しかし、中へ入ってすぐの玄関で、俺はそこで待っているように言われたので、玄関に腰掛けて待つことにした。
「じゃあ、ちょっと確認してくる」
「はい」
そう言うと、三峯警部は懐から拳銃を取り出して、ライトを使いながら真っ暗な家の中へと入っていった。
真っ暗な室内であったが、三峯警部はライトの灯を頼りに奥へと進み、突き当たりへとたどり着いた。
この家は、珍しい形をしており、玄関から入ってまっすぐに伸びる廊下があり、突き当たりにたどり着くと、そこから左右に向かって再び廊下が延びている、T字のような廊下の作りをしている。
突き当たりの壁には、迷わないように案内標識のようなものが掛かっていた。普通の家にこういうのがあるのは不自然であったが、三峯警部はそこまで頭が回っていなかった。
「右に行くとキッチンで、左に行くと風呂か・・・・・・。しかし、さっきからスイッチを押してるのに、電気が点かないな・・・・・・。先にブレーカーを探した方がいいか・・・・・・」
そう思った三峯警部であったが、来たことがない家のどこにブレーカーがあるのか分かるはずもなかったので、分かるであろう修也の元へ戻ろうと踵を返した。
一直線であるので、そこまで警戒する必要はなさそうだが、左右はドアだったり、障子戸だったりするので、油断は禁物である。
玄関へと戻ってくると、待ってるように言ったはずの、修也の姿がそこにはなかった。外へ出てしまったのかと思い外へ出たが、外にもいなかったので、再び家の中へと戻った。しかし、玄関の敷居をまたいで中に入ろうとした瞬間、何かに躓いて倒れそうになった。
「おっとっと・・・・・・。な、なんだ?」
何に躓いたのか気になった三峯警部は、躓いたであろう場所へライトを当てると、そこには修也が倒れていた。
「し、修也君!」
急いで駆け寄ったその瞬間、頭部に鈍い痛みが走り、三峯警部もその場で修也に覆い被さるように倒れ込んでしまった。
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