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第18話 行方不明
同日、22時頃。河川敷公園。
三峯警部が、一人の少年と共に現場を離れてからしばらく経ったころ、石動警察署の捜査本部から、捜査本部長である、高坂警視正が現場入りした。捜査本部の本部長は、捜査本部で偉そうにしているイメージが強いが、この香坂警視正は、捜査は足から、という、昔ながらの操作方式に拘る警察官で、キャリア組の一人だ。なお、三峯警部や、林警部と同期である。
「本部長がいらっしゃったぞ!」
「これはこれは、香坂警視正。このような現場に、警視正自らがいらっしゃるとは」
「林・・・・・・。嫌味か」
「いえいえ」
「お前は昔から変わらないな」
「あなたこそ」
二人は、顔を合わせずに言葉だけを交わして、事件が起きた河川敷公園へと向かった。河川敷公園には、香坂警視正より先に現場入りしていた鑑識課の面々によって、現場の調査が行われていた。
イカダに乗せて流されてきた遺体は、ブルーシートに囲まれた場所に安置されており、香坂警視正は先に遺体の確認へ向かった。
ブルーシートで囲まれた中に入ると、横たわっているであろう遺体の上に、シーツのようなものがかぶせられた何かがあった。
「何かわかったことは?」
「いや、まだ何も。聞き込みを行ってはいるのですが、誰も知らないそうです。顔も見たことないとか」
「ふむ」
顔にかかっている布を取ると、そこには安らかに眠るように亡くなっている女の人の顔があった。見た目的には、非常に若く見える。
「遺留品は?」
「それが、先のバラバラ死体の時と同様、遺留品が一切見つかっていないのです」
「警視正!」
ブルーシートをかき分けて、一人の刑事が中に入ってきた。捜査本部に参加している、県警本部から派遣されてきた刑事だ。先日殺害された、荒木刑事の同僚である。
「身元がわかりました」
「本当か?」
「はい。美神自治会長の証言ですが、恐らく、緑川祥子ではないか、とのことです」
「緑川祥子?」
はて、といった顔で林警部が腕を組んで何かを考え始めた。どこかで聞いたことある名前である。しばし思案したのち、それを思い出した。
「緑川・・・・・・。ああ、あの子の・・・・・・」
「林、何か知ってるのか?」
「いや、少し前に三峯警部が、緑川修也という男の子を家まで送ると言っていたんです」
「緑川修也? 同じ苗字・・・・・・偶然、と片付けるわけにはいかないな」
「ええ」
「それで、三峯は帰ってきてるのか?」
そう言われて、そういえば三峯警部の姿をあれから見ていないことに林警部たちは気がついた。
「そういえば、まだ帰ってきた姿は見てませんね」
「あいつ、どこをほっつき歩いてるんだ・・・・・・」
「気になりますね。緑川家、行ってみますか?」
「ああ、行こう」
現場の指揮を、別の刑事に託してから、香坂警視正と林警部たちは、緑川家へと向かうことにした。
ところ変わって、ほぼ同時刻。???。
何者かに頭を殴られた三峯警部は、暗闇の中にいた。頭部から出血はしているものの、致命傷にはならない程度の傷であるが、脳震盪を起こして気絶しているためか、まだ目を覚ます様子はなかった。
それからさらに少し経ち、三峯警部は目を覚ました。しかし、目をあけても目の前が真っ暗闇の状態だ。手足を動かそうにも、縛られているのか、動かせなかった。
「おや、ガタガタ音がするから見に来てみれば・・・・・・。目を覚まされたのですね、三峯さん」
「お前は・・・・・・誰だ・・・・・・!」
目隠しをされているため、顔は見えない。声が聞こえてくる方向と、扉の開く音から、どこにいるのかは大体はわかるものの、これまでに聞いたことのない声であったため、正体が分からなかった。
「全く・・・・・・。余計なことをしてくちゃって・・・・・・。あの方の指示書にはない、予定外のことではあるが、まぁ、ヨシとしましょうかね」
「あの方? 指示書? 一体何のことだ!」
「おやおや。この国の警察は、そこまで無能なのですか。未だに、今回の事件の真相にもたどり着いていないようですし」
耳元であざ笑うかのように、”誰か”がささやいた。気配を感じなかったため、ビクリとした。しかし、三峯警部はすぐに冷静さを取り戻し、”誰か”に問いかけた。
「お前が、今回の連続殺人事件の犯人なのか」
「・・・・・・遠からずとも近からず、といったところでしょうか。三峯警部、あなたの言葉をそのまま捕らえれば、彼ら4人を殺害したのは、この、私だ」
「4人・・・・・・?」
妙だ。殺害されたのは、3人だけのはずだ。少なくとも、俺が知っている限り、事件は3件しか起きていないはずだ。
「ばかな、事件は3件しか起きていないし、遺体だって3人分しか見つかっていない! 4人目は、一体誰なんだ・・・・・・!」
「なるほど、警察はまだ、あの死体を見つけていないのか・・・・・・。それもそうか、あのときは・・・・・・」
俺の言葉を聞いて、”誰か”は、歩くのをやめた。足音が聞こえなくなったが、声は聞こえるため、まだ近くにいるのだろう。
「そうだ、俺と一緒にいた子どもはどうした!」
ここにきて、ようやく、一緒に居た子ども、修也について思い出したかのように、近くにいるであろう”誰か”に怒鳴るように問いかけた。
「子ども・・・・・・? ああ、あの子ですか。あの子なら、倒れているあなたを見て、一目散に逃げ出しましたよ」
逃げ出した。それを聞けただけ、安心できた。しかし、この言葉に紛れ込んだ、ある不可解な事実には未だ知るよしもなかった。
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