第20話 運命の幕開け

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第20話 運命の幕開け

 翌日、5月15日。午前7時30分、緑川家。  この日、捜査員を十数人ほど引き連れて、香坂警視正と林警部たちは緑川家へと戻ってきていた。緑川家の敷地内を徹底的に捜査する為である。家宅捜索であるため、裁判所へ執行令状の申請を出している。発令されるのは、早くても8時過ぎだと思われている。  昨日発見された、不審な遺体の解剖は、石動警察病院へすでに搬送して行われている。 「そういえば、昨日の老人はどうだった?」 「まだ意識は戻りませんが、医者が言うには、命の別状はないそうです。頭部に裂傷は見られるものの、浅いため、支障はないそうです」 「そうか」  捜索差押令状が到着するまで、何も出来ないため、緑川家の近くに車を止めて昨日の老人のことについて情報共有を図っていた。 「そういえば、人形流しを行ったあとの人形ですが、昨日あんな事件があったせいで延期しているみたいで、今日の午後3時頃に焚上げ供養を行うそうです」 「延期していたのか」 「ええ。さすがに」  焚上げ供養と、遺体が流れてきたことには何ら関係がないように思えるが、実際はそうもいかない。なぜなら、焚上げ供養には県外から旅行で訪れた人たちもそれを見学するからだ。焚上げ供養観覧を中止すればいいだけのような気がしないでもないが、町長が人形流しの後に焚上げ供養の見学をする、ということを案内しており、その案内を見て見学したいという人が殺到したため、中止するわけにもいかなくなったそうだ。 「しかし、なんで午前中じゃないんだ? 仕事がある人たちもいるだろう」 「まぁ、昨日の人形流しが19時過ぎから始まって、当日に焚上げ供養を行ったとしても、22時頃です。そこから家に帰って、今日から仕事っていうスケジュールは、現実的ではないですからね。今日中に家に戻れればいいと考えている観光客が覆いそうですよ」 「なるほどなぁ」  そんなことを話していると、気づいたら時間が経っており、時計は8時10分頃を指していた。早ければ、もうそろそろ令状許可が降りるはずだ。  さらに20分ほどが経ち、8時半。一台のパトカーが、サイレンを鳴らしながら近づいてきた。近づいてきたパトカーが、香坂警視正たちの乗るパトカーの近くに止まると、中から1人の刑事が降りてきた。刑事の手には、一枚の茶封筒があった。  小走りで香坂警視正の元へと駆け寄ると、その刑事は茶封筒を手渡した。香坂警視正が茶封筒の中を確認すると、待っていたアレが到着したことを示すかのような、笑みを浮かべていた。 「よし、行くぞ」 「はい!」  香坂警視正たちは、パトカーから降りて緑川家へと向かった。  インターホンを鳴らすが、案の定、誰もいないようであった。しかし、刑事と鑑識たちはお構いなしに、ドアを開けて家の中へと突入した。捜索差押令状は、拒否することが出来ない。これを拒否した場合、公務執行妨害の罪で逮捕されてしまう。しかし今、緑川家には誰もいない。昨日倒れていた人物が、緑川家の関係者である可能性は否めないが、例えそうであったとしても、何ら問題はなかった。 「今回の事件に繋がりそうなものは、全て押収しろ!」 「はっ!」  刑事たちは、手際よく家の中を物色し始めた。  その光景を尻目に、香坂警視正と林警部は、仏間に来ていた。実はキッチンから、外へ通り抜けられる道のようなものがあるのは、昨日の調査の段階で判明していた。途中には食材などが置かれていたため、家屋直結式の簡易倉庫といったところだろう。しかし、それらを考慮しても、明らかに不自然な箇所があった。それがここ、仏間である。  間取り的には、キッチンから外へ通じる通路に入ると、そこからさらに二手にわかれていた。1つは、出てすぐに左へ進むと、そこは風呂場の脇に通じていた。近くに風呂をわかすのに使っていたであろう、薪置き場のようなものがあったので、かつて薪を使って風呂を沸かしていたころの名残だろう。  それに対して、逆側。キッチンからその通路に入って右側に進むと、色々な材料とともに、食材や調味料、洗剤などが置かれていた。明らかに、倉庫として使われている感じであった。しかし、その通路に違和感があったのだ。右手に進んですぐに、さらに右に折れていた。それだけなら、まだ問題はない。ごくごく自然に、不自然な形になっているのだ。 「・・・・・・。確かに、この奥に空洞があるようですが・・・・・・。キッチン裏の、通路ではないのですか?」  仏間の壁をこんこんと叩きながら、鑑識が言った。壁の中が空洞でなければ帰ってこない、反響音が聞こえてきたからだ。通常、壁というのは、壁の先が何もない、ただのコンクリートの塊であるなら、叩いたとしてもその音が吸収され、返ってくることはない。しかし、中が空洞であるなら別だ。空洞である場合、叩いた音は、反響して戻ってくる。 「いや、恐らく違う」 「はぁ。まぁ、香坂警視正が仰るのならそうなのでしょうね。しかし・・・・・・」 「ああ、気が引けるのはわかります」  さすがに、仏間の壁を壊すのは気が引けたので、鑑識と一緒に仏間の裏手にあたるキッチン裏の通路へと移動した。仏間ではないが、仏間の裏手の壁なので、やっぱり気は引けたが、四の五の言ってても仕方がなかったので、鑑識は持ってきたドリルで、壁に穴をあけていった。 「正直、訴えられそう」 「奇遇ですね、私も思ってました」 「まぁ、埋めておけば分からないでしょう」  ドリルは順調に穴を開け続けた。さすがに、1人だと時間がかかるので、数人がかりで作業を行っていた。それから数十分後、ようやく壁に穴をあけ終わった。壁だったものはボロボロと崩れ去っており、目の前には、壁と壁の間に挟まれた、階段のようなものが出てきた。  穴をあけた場所が側面だったせいか、中途半端な位置に出てしまったので、階段へアプローチすると思われる場所の調査を行った。その結果、勝手口と入り口の間の、何の変哲も無いただの壁に、仕掛け扉があるということが判明したのだった。
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