8分19秒後の夜

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8分19秒後の夜

 その日は夏季休暇の最終日だった。  外出を禁止されていたが、ぼくは伯父さんのパスを拝借してシェルターを抜け出した。  バレたらひどく怒られるだろう。それでも、この目で最期の瞬間を見たかったのだ。  空はウソみたいに青く、アスファルトの照り返しは暑く、人のいない街はどこまでも静かだった。ぼくは準備していた自転車をこいで海へ向かった。  伯父さんは宇宙工学の研究者で、シェルターを出入りできる特別なパスを持っている。それを知ったときから、この日をシェルターの外で迎えると決めていた。  波止場にたどり着き、防波堤へ座る。月の引力か風のしわざか、ささやかな波の音以外はなにも聞こえない。首筋を汗が流れていく。飲み物を持ってくればよかった、と思っていると、かすかにシャッター音が聞こえた気がした。  空耳かと思ったがふたたび音がする。振り返ると、サングラスをかけ派手なアロハシャツを着た男が旧式のカメラを構えていた。 「外出禁止のはずだけど」  そう言ってにやりと笑う。 「…そっちこそ」 「こう見えてジャーナリストの端くれなんでね、ちゃんと許可証だって持ってる。きみは?未成年だろう?」 「答えたくありません」 「つれないなぁ、ここで会ったのもなにかの縁じゃないか。ほら、ラムネやるから仲良くしようぜ」
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