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男はビニール袋からラムネのガラス瓶をふたつ取り出す。ガラス瓶は触れあってカチンと涼しげな音をたてる。
なにも返事をしていないのに、「冷えてるうちがうまいぞ」と言って、男はぼくのとなりへ腰をおろしてしまった。馴れ合うつもりはなかったが、喉の渇きから、その誘惑を断ることができなかった。
「…いただきます」
手に取った瓶の冷たさに喉がなる。
「素直でよろしい。最高だよな、夏のラムネは」
口に含むと炭酸がはじけた。お互い喉を潤しながら、水平線の入道雲が形を変えていくのをぼんやりと眺める。じりじりと肌が焼けていくのがわかる。
「この暑さが生きてるってかんじだな」
愉快そうに男が言う。迷惑なことに、この場を離れるつもりはないらしい。そしてラムネがぬるくなった頃、男はふたたび「さて」と口を開いた。
「太陽の高度が57.4°、方位は218.2°…あとおよそ8分で夜がやってくる」
ぼくは水平線を向いたまま「うん」と返事をする。
太陽の光が地球に届くまで8分19秒かかる。つまり、太陽が消滅してからおよそ8分後、地球は光を失い、しだいに公転軌道から外れていく。
太陽の消滅は数十年前から予測されていたことで、太陽光が失われても生きていけるようにシェルターが作られていた。
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