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シェルター内にある人工の光や空や海だって悪くないが、やはり本物をしっかりと覚えておきたい。そう思って今日ここに来るための計画をたてたのに、なぜ見知らぬ男と並んでその時を迎えなければならないのか。
シャッター音にとなりを睨む。
「勝手に撮らないでください」
「被写体として自信を持ったほうがいい」
「話が通じないなぁ」
「貴重な一枚だぞ、太陽の最期の光なんだから」
「それはそうかもしれないけど」
「笑ったらどうだ、スマーイル」
「嫌です。最悪だ、こんなはずじゃなかったのに」
そんな不毛な言い争いをしていると、あたりにぱっと光が満ちる。そしてまばたきの間に青空は消え幕がおりるように暗闇がおとずれた。あっけないほど一瞬だった。足元の波が不穏に揺れている。
「カウントダウンできなかったなぁ」
鷹揚に男が言う。
「ほんっとうに最悪だ」
「まあまあ、見てみろ。我らの銀河、天の川が見事だぞ」
うなだれていた視線をあげる。黒々とした水平線から一転、空一面に星がきらめいていた。ぼくは天頂まで見上げ、そのまま仰向けに寝転んだ。しばらく言葉がでてこない。
白い天の川、紫の星雲、点在する赤や橙色の星々、青い尾を引く流星。想像をはるかに超えた鮮やかさに圧倒される。
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