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「太陽光で見えなかっただけで、おれたちはずっと星空の下にいたんだな」
ぼくは目蓋を閉じ、防波堤に残った太陽の熱を背中でかんじた。太陽が消滅して、これから気温はどんどん下がっていく。こうして無防備にシェルターの外へ出ることはできなくなるはずだ。
「…あとどれくらいこうしていられますかね」
「まだしばらくは平気かな。それよりほら、話し相手がいて良かっただろう」
「今のは独り言です」
目蓋を開ける。星がいくつもいくつも流れていく。
「つれないなぁ。おれとしては良い被写体に出会えてうれしいかぎりなのに」
「それはよかったですね」
「明けない夜に乾杯」
そうだ、太陽はもう昇らない。この夜は二度と明けないのだ。差し出されているガラス瓶を無視してぼくは立ち上がる。
「ラムネ、ご馳走さまでした。瓶は記念にもらっていきます」
空の明るさに比べて地上は真っ暗だった。星降る夜のなか、公転軌道を外れた地球はどこへ行くつもりなのか。
海に背を向けて歩き出すと、波の音にまじってシャッター音が聞こえた。どうせ見えないだろうから思いっきり顔をしかめ、中指を立ててやった。
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