貯金箱1

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毎朝、貯金箱に500円ずつ入れるのが 日課になっている。 目的は引越し資金を貯める為だが、 何故500円に設定したかは正直忘れた。 硬貨の方が貯金してるって感じがする、 とかそんなものだったと思う。 貯金箱といえば、豚の貯金箱でしょ。 そう言ったのは麻衣だったが、 僕も同意見だった。 昔ながらのまんまるとした シルエットが愛くるしい。 貯金箱を持ち上げて傾けると、 ジャラジャラと重みが移動する。 いくら貯まっているのか見当もつかないが、 そこそこの額になっているだろう。 目標額は決めていなかったが、 貯まることが終わりだと思っていた。 だが、それよりも前に事件が起きた。 ある日帰宅すると、 麻衣が部屋の奥で電気も付けずに 放心状態で座っていた。 「ただいま...」 何と声をかけるべきか分からず、 それだけを口にした。 「貯金箱...無くなってた... 今朝まであったのに... やっとあそこまで貯まったのに...」 玄関まで戻って確認すると、 すっかり馴染んでいたその姿は 確かになかった。 玄関に置いてしまったから、 盗難にあったのかもしれない。 貯金箱なんてアナログなことをせずに 預金口座を開設すれば良かった。 そんな彼女の後悔は翌朝になっても 止まらなかった。 僕も反射的に財布から取り出した 小銭が行き場を無くした時は、 習慣となっていたことを実感した。
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