貯金箱1

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「警察に連絡しようと思うの。」 2人で囲む夕飯の食卓で 麻衣はそう話を切り出した。 「そこまでする必要はないんじゃないか。」 「だって、立派な空き巣だよ。 2人で貯めてきたお金が盗まれたのに、 湊は何でそんなに冷静なの。」 「僕だってショックだけど、 仕方がないというか。」 「そんなんじゃ片付けられないよ。 ずっと言わないでいたけどさ、 ちゃんと毎日お金入れてたの。 最近は先に出て行っちゃうし、 サボってたんじゃないの。 だからそんな他人事なんだよね。」 彼女は僕の無関心な態度に温度差を感じ、 それが気に食わないからか、 威圧的な言葉をぶつけてきた。 「これを見て欲しい。」 あくまでも冷静を保って、 携帯の画面を彼女に向ける。 「なにこれ。」 「貯金箱に防犯カメラを仕掛けておいた。」 「え、いつの間にそんなことしてたの。」 「何かの役に立つかなと思ってさ。」 画面に映し出された部屋に 男が入ってきた。 「...これ私の実家だよね。 何でお父さんが持ってるの。」 「僕もそんなことをする人だと 思わなかったから驚いた。 でもやっぱり僕らのことを よく思っていないみたいだからね。」 一度だけ彼女のご両親に 挨拶をしたことがある。 彼女の父親はドラマで観るような 気難しいタイプの人間で、 僕の前では常に口をへの字に結んでいた。 「私も自分の父親が そんなことをする人だなんて 思ってもみなかったし、 未だに信じられない。」 彼女は混乱した様子で 俯いたまま言葉をこぼしていく。 「でも、これが動かぬ証拠だよね。」 彼女にとってかなりショックな 出来事のようだった。 この一件がきっかけとなり、 麻衣の方から別れを告げられた。
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