第2章 時任の呪い

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「そういうおまえも、どうしたんだよ、女の子に暴力って」  森田が呆れながら言った。 「いや、あれはだな、口を塞ごうとしたら勢い余って激しい壁ドンになってしまってだな、彼女が驚いて?痛くて?泣いちゃったところを通りかかった奴らが勘違いしたってだけだ」  俺は憮然としながら申し開きをした。  人事部の聞き取りでも同じことを言ったが、「暴力は暴力だ。彼女もひどく怯えている」と言われてしまった…。 「彼女、何を言おうとしていたんだ?人事の聞き取りでは、普通に挨拶をしようとしていただけだって言ってたけど?」 「挨拶だとぉぉ?」  思わず大きな声を出してしまった。 「挨拶なもんか!あれは告白だ。もしも俺が口を塞がなかったら『時任さんのこと前から好きでした』って言うつもりだったにちがいない」 「告白ぐらいさせてやれよ」  北川が呆れている。 「ダメなんだ。どういうわけか1年ぐらい前から告白を受け付けない体質になったんだ」  それの真剣なカミングアウトに同期3人は笑い転げた。 「アホじゃねーの」 「何言ってんだよ、なんだよその体質」 「病院いけ」 「あのなあ、俺は真面目に言ってんの!どういうわけか、『好き』とか『愛してる』とか、俺に好意を寄せる言葉を言われるとビリビリ電気が走る体質になったの!」 「痺れる告白、最高じゃねーか」 「馬鹿いえ、ビビっとくるとか、ゾクっとくるとかじゃなくて、感電レベルだからな?何度も食らったら死ぬんじゃないかと思ってる」 「ときとーさん、だーいすきぃ」  西沢が突然そう言って抱き着いてきた。 「……なんだ、大丈夫じゃん」 「西沢、おまえな、もしこれでビリビリきてたら、おまえが本気で俺を好きってことになるんだぞ?いいのか?俺にはそっちの趣味はないから即お断りだけどな!」 「まさか、去年カノジョと別れたのって……」  森田が思い当ったようにつぶやいた。 「そうだよ!この妙な体質になったせいで『好き』って言われるたびにビリビリきて、もう死んじゃうと思ったから別れた」 「言わなきゃいいんだろ?」 「うん、カノジョも一応理解はしてくれたし協力もしてくれたけどさ、たとえばエッチなことしてるときに気持ちが昂ると、つい出ちゃうみたいなんだよなあ『好き』って」  俺は頭をかきむしった。 「なるほどなー。カノジョはイッて痺れてて、おまえは感電してるとか、想像するとすげえシュール」 「てゆうかそれ、彼女は一緒に感電しないわけ?」 「ああ、してなかった」 「それってさあ、ゴムつけてたんだろ?だからじゃね?」  下品な笑いが響いた。  くそーこいつら、カノジョと泣く泣く別れた俺の苦悩を下品な笑い話にしやがって! 「俺もう、運命のたった一人と結ばれるまでずっとこの体質らしいんだわ」 「それ誰に聞いたんだ?」 「占い師」  また3人が「なんだよ占い師って!おまえ馬鹿だろ」とゲラゲラ笑った。 「これまでさんざん女の子のことを泣かせてきた罰が当たったんだろ」  おい、北川、お前にだけは言われたくないぞ。  こうなったらもう…… 「今夜はとことん飲んでやるー!」
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