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その日の昼過ぎ、俺は不機嫌であることを隠しもせずにイライラしながら社員食堂で遅めの昼食を食べていた。
「また会ったな」
顔を見なくてもわかる。北川だ。
「おつかれさーん」
隣に座る北川を見ないまま鶏の唐揚げをむしゃむしゃ食べ続けた。
「なんだ、不機嫌だな」
北川がくつくつ笑う。
「あきらパイセンもオンナだなー。朝にこにこしながら『かえるの王子様』の話をしてたときは、俺が『女の子の裸』とか『性欲強めだから』って言ってもスルーだったし、向こうも『処女』だとか『貞操』がどーのって言ってたのにさあ…」
「ちょっと待て」
北川が途中で俺の話を止めた。
「なんで『かえるの王子様』からそんな話になるんだ?おまえら朝から倉庫で何やってんだよ、エロいな」
「いやいや、そうゆうんじゃねーから」
唐揚げを飲み込んで、水を一口飲んだ。
「それなのにさ、俺が真面目に仕事の話をしたらブッスーってむくれちゃってさあ。こないだ教えてもらっただろ、『業務改善提案書』。あれ作って出してみようって言ったらヤダって言うんだぜ?それでついさっきまでケンカしてたわけ。どゆこと?オンナってほんと感情がコロコロかわって面倒」
北川は大きなため息をついた。
「ノロケにしか聞こえないんだが」
「おい、これがノロケに聞こえるなら、おまえ病院行ったほうがいいぞ?あきらパイセンがICレコーダーで会話を録音してるかもって、顔色伺いながらふたりっきりで過ごすのってツライわー」
北川がまたくつくつ笑った。
「それがわかってんのに『性欲強め』とか言うなよ。馬鹿だろ」
「そうなんだよ、俺馬鹿なんだよなー」
「でもそれが、時任の憎めないところだよ」
北川は俺の肩をポンと叩くと「お先」と言って行ってしまった。
食うのはえーな、おい。
オフィスで忙しく仕事をこなしている北川の姿を想像してうらやましくなった。
倉庫に戻ると、あきらは奥のほうでまた書類整理をしている様子だった。
あきらは猛反対しているが、倉庫に非常灯がないことや予備電源が入らない仕組みになっていることは個人の考えがどうこうではなく、ここで常時勤務している社員がいるにもかかわらずそれを放置している?気づいていない?のは会社の防災対策としていかがなものかと思うから、そのことだけでも改善を提案したい。
あきらがまたあんな風に震えずに済むように――。
その日の午後、俺はノートパソコンで提案書の下書きを作り、あきらとはほとんど口をきかないまま過ごした。
業務時間終了後に棚に上げる箱はあるかと聞くと「ありません」と返ってきたから、帰ることにした。
「あきらパイセン、今日、なんかごめんね。お疲れ様。また明日」
一応謝ってから倉庫を出た。
女の子は意地を張って謝りたくても謝れない生き物だから、男女のケンカは内容がどうであれ、まず男から謝るのが鉄則――って、誰が言ってたんだっけ。
まあ、いいや。
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