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「じゃあ、あきらちゃんにはフローズンダイキリね」
北川の行きつけのショットバーで、お酒はよくわからないと言うあきらのかわりに北川がオーダーしてやっている。
「冷たくってシャリシャリして美味しいです」
「外、暑かったからねー」
北川は俺には一切見向きもせずに、あきらを見つめてにこにこしている。
「時任さんのそのお酒は、何という名前ですか?」
あきらがいつものように首を少しかしげて聞いてきた。
「んー?これはロングアイランド・アイスティー」
「アイスティーって言ってもね、紅茶は入ってないんだよ」
って、なんでおまえが説明してるんだよ、北川め。
「では北川さんのそれは?」
「これ?セックス・オン・ザ・ビーチ」
あきらがブッ!と噴いた。
北川はそんなあきらの背中を「あはは、大丈夫?」と言いながらさすっている。
「北川、おまえなあ、わざとそういう名前のカクテルを頼んでるだろう。このケダモノめ」
「ていうかさ時任、なんでおまえまでついて来てるんだ?俺はあきらちゃんしか誘ってないんだけど」
俺はあきらを見る。
「俺がいなかったら、コイツについて来なかったよな?」
あきらはコクコクと頷きながらフローズンダイキリを飲み干した。
「ほらな、おまえ嫌われてるっていいかげん…おい!聞いてんのか、北川」
北川は俺を無視してまたカクテルをオーダーしているところだった。
あきらの前に置かれたのは、俺と同じロングアイランド・アイスティーだった。
「あきらちゃんが興味深げに見てたから」
そう言って北川は微笑んだが、俺は知っている。
コイツ、飲みやすいけど度数高めの「危険なカクテル」を飲ませて、本気であきらを落としにきているな!
「あ、飲みやすいですねこれ。紅茶入ってないのに紅茶の味がしません?美味しい」
そう言って一気に飲もうとしているあきらの手からグラスを奪って残りを全部あおった。
「ちょっ、時任さん何してるんですか!?」
「北川め~~っ、勝負だコノヤロウ」
「もう酔ったのか?迷惑な奴だな」
「酔ってない!」
「時任さん、酔ってる人ほど『酔ってない』って言うんですよ?」
あきらまでもがそんなことを言ってきた。
「断じて酔ってなどいないっ!」
そのあと、北川がどんどんオーダーするスクリュードライバー、チョコレート・ダイキリ、ジン・デイジーを、あきらが少し口にした後それを奪って飲んで、最後にホワイト・ルシアンを一気に飲み干したことは覚えている。その後はよくわからない。
「時任さん?大丈夫ですか!?」
「あはは、そんな飲み方して馬鹿なの?それであきらちゃんのこと守れると思ってんの?」
そんな声をどこか遠い所で聞いていた。
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