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ショットバーで無茶な飲み方をして寝てしまった時任さんを家に送るべく、北川さんとともに時任さんを担いでタクシーに乗った。
こういうことは初めてではないようで、北川さんは慣れた様子でタクシーの運転手に行き先を告げた。
時任さんはというと、酔っぱらって昏倒しているというよりはぐっすり眠っているような感じで、なぜかわたしにしがみついていた。
時任さんを送るのは北川さんひとりに任せようと思ったのに、しがみついて放してくれなかったために一緒にタクシーに乗るしかなかったのだった。
わたしを守るために?無理してくれたようだし、仕方ないよね……。
「守ってくれなくても大丈夫だったんですけどね」
ボソっというと、北川さんがくつくつと笑った。
「やっぱりそうだよね。あきらちゃん、お酒強いでしょ。ちっとも酔ってないもんね」
「そうですね。普段ひとりぼっちなので全く飲まないんですが、一般的な女子よりも強いみたいです」
「今日は時任の反応がおもしろかったから悪ノリしてごめんね。今度、ふたりで飲もうよ」
北川さんの申し出に、わたしは首を横に振った。
「わたしのような『珍味』に寄り道せずに、北川さんはまっすぐ進んでください」
「どういう意味?」
「わたしに関わらないほうがいいって意味です。財務部は出世コースです。北川さんは優秀ってことでしょう?『奇跡の誤発注』に関わり、いまだに公印の不正使用を認めようとしない小野あきらと親しいと噂になっただけで人事部や役員たちの心証が悪くなります。でも…時任さんとはずっとお友達で味方でいてあげてくださいね」
時任さんが体重を預けてのしかかってきて重い。
しがみついているというよりは、もはや抱きしめられている状況だ。
「あきらちゃんが退職したら、また口説いてもいい?」
北川さんの本心がちっともわからない。
わたしのことが好きなの?まさかね……?
どう答えたらいいかわからなくて黙っていると、北川さんのほうが先に口を開いた。
「それとも、時任のことが好き?」
「――!ないです、それは絶対ないです。時任さんからも『好きにならないでね』って言われてますし」
「随分ムキになって否定するんだね。好きって言ってるのと一緒だよ?」
「万が一わたしが時任さんを好きだとしても、時任さんに好きって言ったら、感電しちゃうじゃないですか」
すると北川さんがプッと笑った。
「ねえ、あきらちゃん、さっきから時任に向かって『好き』を連発してるって気づいてる?」
「わっ!そうだった!……あれ?感電してませんよね?」
時任さんは相変わらずわたしを抱きしめながらスヤスヤ寝ている。
「寝ていたら大丈夫なのか?」
「さあ…?というよりも、やっぱりわたしの『好き』には、そういう感情がないってことなのではないでしょうか」
試しにもう一度、時任さんの耳元で言ってみる。
「時任さん?好きです。大好きですよ」
やはり反応は何もない。
「ふふっ、ほらね」
笑いながら北川さんを見上げると、北川さんは憮然としていた。
「ちがう。そうじゃないことがよくわかった」
「え?」
「悔しいから、あきらちゃんにも時任にも教えてやらない」
意味がよく分からないわたしは、ひたすら首をかしげるだけだった。
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