第10章 月を追いかけて

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 あきらが弁当を売っているという東松公園に来た。  北川によると、友人のキッチンカーを手伝っているらしい。  昼過ぎに到着すると、1台のピンク色の派手なキッチンカーに列ができていて、おそらくあの中にあきらがいるんだなと思ったが、客の応対は主に友人のほうがしているようで、あきらの姿はよく見えなかった。  随分と繁盛しているんだな、ああ、だから手伝いが必要なのか…と思いながら、ベンチに座って遠巻きにその様子を眺めた。  客足が途絶えたところでようやく、あきらの姿が見えた。  一旦マスクを外して手で顔をパタパタ扇ぎながら談笑していた。  髪をショートボブにして、メガネを外し、笑顔を見せる可愛いあきらがそこにいた。  近づいていくと「いらっしゃいませ」と声をかけてくれたのは、あきらの友人のほうだった。  あきらは背中を向けて、中で作業している。     注文の3種類のおかずを全部鶏の唐揚げにしたところで、あきらが振り返ってようやく俺のことを見てくれた。 「もう俺のこと忘れちゃったの?あきらパイセン冷たいなあ」    あきらの瞳が大きく揺れて何か言いかけたとき、友人があきらに位置を譲った。 「あきらのお知り合い?じゃあ、あとお願いね」 「北川さんに聞いたんですか?」 「うん」  あきらは伏し目がちに鶏の唐揚げを詰め、最後に注文していないはずの切り干し大根を乗せた。 「野菜も食べてくださいね」  千円札を出し、お釣りを受け取るときに、あきらの手を握った。 「仕事が終わったらデートしませんか?」と言うと、あきらは耳を赤くして無言のままコクンと頷いた。  近くの空いているベンチでのんびり弁当を食べて、スマホをいじりながら待っていると 「お待たせしました」  あきらが小走りで近づいてきた。その可愛い姿に身もだえてしまいそうになる。 「お疲れ様。あきらの魔法はすっかり解けて、元の姿に戻ったんだな」  あきらは、ふふっと笑った。 「だって、王子様にキスしてもらいましたから」 「なんだよ、あきらはロマンチックなほうか。俺なんて昨日、悪い魔女にひどい目にあわされたのに」  あきらは、なんですかそれ、と言ってまた、ふふっと笑った。  本当は、こんなによく笑う子だったんだな。    並んで歩き出そうとして、キッチンカーからこっちをじっと見ている友人に手を振るあきらの白くて細い首に目を奪われた。  俺はたまらず、あきらの手を引いて早足で歩き、木陰の死角に引き込むと、あきらを抱き寄せて唇を重ねた。  ちゅっ、ちゅっと角度を変えてやわらかい唇に口づけた後、あきらのことを胸にすっぽりと抱きしめた。 「あきら、どうして嘘ついたんだよ。俺らあの日の夜やっぱりキスしてたじゃん」  あきらは顔を上げた。  頬をぷくっとふくらませている。 「だって、時任さんが覚えてないから。あんな…あんな激しいキスしておいて覚えてないからいけないんです」  なんだよもう、可愛すぎかよ。
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