第11章 太陽の試練

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 マジか…。  あきらって、まさか処女なのか?  いや、ウブだとは思っていたけど…う~ん…。  観覧車に乗ったのは大学生の頃以来だなんて言ったのは失言だった。  大学生が野郎同士で観覧車に乗るはずがない。ってことは、女の子と乗ったって言ったも同然で…。  でも「カノジョと?」とか「キスしました?」なんて聞くのは野暮すぎないか?  あのとき一緒に観覧車に乗ってキスしたのは、たしか、みなみちゃん……って、そんなことどうでもいい!  仕方なく正直に「したよ」と答えると、予想の斜め上を行くことを言われた。  俺がうらやましい?はぁ? 「わたし今まで誰かとお付き合いしたことないんです」  あきらのその言葉がいまだに頭でこだましている。  どゆこと?「カレシいない歴イコール年齢」っていうわりには、随分平気な様子でキスは受け入れてた気がするんだが?  一体どこまで経験したことがあるんだ?カレシじゃないなら、一体誰と?  ……すげえ気になるけど、そんなこと聞くのは無粋だってことぐらい、馬鹿な俺でもさすがにわかる。  目の前でオムライスを食べるあきらのことを、先に食べ終えた俺は頬杖をつきながら眺めている。 「あきらってさぁ、男ともメシ食いに行ったりするじゃん。そこで口説かれたことないの?先週、北川ともデートして口説かれたんだろ?」  あきらは食べる手を止めて、目をぱちぱちさせた。  そして首をかしげて言った。 「口説かれた…のは、まあ否定しません。でも北川さんとは一緒にお酒を飲んだだけで、デートじゃないですよ?好きな相手じゃないと『デート』って言わないですよね?」 「そうなのか?」 「ちがうんですか?」  ああ、なんか今一瞬、これまでにあきらを口説こうとして全く相手にされずに散っていった男たちの屍が見えた気がする。 「じゃあさ、これまでに好きになった男はいなかったのか?」 「……いました。その人に色んなことを教えてもらいました。でもその人には別に本命のカノジョがいて、わたしは遊ばれていただけだったんだと後から知りました」 「サイテーなやつだな」  なるほどな、だからそいつは「カレシ」にはカウントしてないわけか。  あきらは再びオムライスを食べ始めた。  そして、わざとらしいぐらい明るい声で言った。 「学生の頃の話なので、何年も前のことです。だからもう笑い話です」  嘘つけ、泣きそうな顔してるじゃねーか。  そのサイテーな男のことはもう好きじゃなくても、その傷をずっと引きずってきたんだろう? 「このあと俺ん()来る?」  あきらが食べ終わるのを待ってから誘ってみた。 「いいんですか?」  あきらが来週の土曜日まで何の予定もないことは、すでに本人に確認済みだ。 「泊まってくれてもいいけど、どうする?……言ってる意味わかるだろ?」  いつもならこんなこと聞かない。  女の子が家に来たら自動的に「いただきます」だ。  でもあきらは、さっきの話から察すると随分ご無沙汰なはずで、あきらを怯えさせたくないと思った。  あきらが何か考えているときは、目をぱちぱちさせるのがクセらしい。  なかなか覚悟が決まらない様子で、瞬きを繰り返したり眉を寄せたり目を泳がせるのが可愛くて、ププッと笑いながらとりあえず行こうかと促して店を出た。 「なあ、あきらはエッチなことするとしたら何年ぶり?」 「えっと……7年ぶり3回目です」 「甲子園の出場回数かよ」  思わず笑うと、あきらは、もうっなんですかそれと言って顔を真っ赤にした。 「ドラッグストア寄って、パンツと靴下とハブラシ買ってから行こ」  耳元でそう言うと、あきらは真っ赤な顔のままコクンと頷いた。
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