第11章 太陽の試練

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 時任さんの家に着くと、「はい、これ」と言って時任さんが缶チューハイをテーブルに置いた。  え、飲めってこと?  ストロングとか書いてありますけど?  ドラッグストアで買った物を冷蔵庫に入れている時任さんと缶チューハイを交互に見続けていると、その作業を終えた時任さんがプッと笑いながらこっちへ近づいてきた。 「あきらがガチガチに緊張してるから、アルコールでリラックスさせる作戦」  そう言って笑いながら、時任さんはわたしを抱きしめた。  時任さんはこんなにも余裕なのに、わたしのほうは確かにガチガチに緊張している。 「あきら、酒強いんだって?次のデートは車やめるから飲み行こうよ」 「嫌です。時任さんが酔いつぶれたら、わたし一人じゃ運べませんから」 「なんだよ、俺が先に酔いつぶれる前提かよ」  お互い顔を見合わせて、ふふふっと笑った。  時任さんの顔が近づいて来て、ちゅっとキスを落とされた。  角度を変えて数回唇を重ねたあと、時任さんの大きな手がわたしの後頭部をしっかり押さえて…あ、この感じは…と思ったら、案の定、舌を挿し入れられた。 「…ん……んふっ…」  自然と甘い吐息が漏れて、足の力が抜けてきて、わたしは時任さんの背中に手を回して服をぎゅっと掴んだ。  時任さんの分厚い舌は、あの日の夜のような荒々しい動きではなくて、もっとゆっくりと堪能するようにわたしの歯列をなぞり、舌の表も裏も舐められて、最後は全てを吸い取るようにちゅうっと大きな音を立てて離れた。  ようやく新鮮な空気を大きく吸って、はぁはぁいっているわたしの頭をポンポンすると、時任さんは嬉しそうに笑いながら、わたしをぎゅーっと抱きしめた。 「あきら、どうしよう。俺いま浮かれてて、あきらが酒飲んで酔うまで待てそうにないよ。ベッドいこ?」 「あの!ひとつ確認させてください」  わたしが慌てて言うと、時任さんはスッと真顔に戻った。 「大丈夫。俺、初めてじゃないから、任せてくれればいい」 「も~~っ、違います。そんなこと、わかってます!」  体を少し離して時任さんを見上げた。  じゃあ何だよ、と言われて、改めて問うのが急に恥ずかしくなって顔がどんどん熱くなるのを感じながら、思い切って聞いた。 「わたしたち、恋人同士ってことでいいんですよね?」  時任さんは数秒ぽかんとした顔をした後、あははっと笑った。 「ごめん、あきらはそこハッキリさせておかないと、不安だよな」  わたしはコクリと頷いた。  大学生のときに、同じサークルの2つ上の先輩のことが好きになった。  たぶん、誰から見てもすごくわかりやすくその好意を態度に出していたんだと思う。 「あきらちゃんって、俺のこと好きでしょ」  先輩と二人っきりになったときにそう言われてコクンと頷くと、いきなりちゅっとキスされた。  それはあまりにもあっけないファーストキスで、しかもその二日後にはもう処女でもなくなった。  拙速すぎるとは思ったけれど、「好きだから」と言われて、わたしたちは恋人同士になれたのだと思い込んでいた。だから、求められるがままに全てを差し出したのに、先輩には本命のカノジョがいて、わたしのことは、ただのちょっとした火遊びだったらしい。  先輩とはデートらしいこともしたことがなく、一人暮らしの先輩のアパートで2回抱かれただけで終わった。  それからは、勢いで体を許したりしないように、身持ちを固くして生きてきた。  わたしの人生って、なんでこんなに暗いことばかりなんだろうか。  急に落ち込んで下を向いていると、時任さんがわたしの手を両手とも握って、身をかがめて顔を覗き込みながら笑った。 「小野あきらさん、あなたのことが大好きです。俺とお付き合いしてください」  泣きそうになって、時任さんに抱き着いた。  その胸に顔をうずめたまま「ありがとうございます。よろしくお願いします」と答えた。  時任さんは、そんなわたしを優しく抱きしめながらまた笑った。 「この年でこんな告白恥ずかしいもんだな。これで俺、あきらのカレシ第一号だろ?うははっ嬉しい」  時任さんは、ちょっとお馬鹿で、よく笑って、きっとこれまでにたくさんの恋を経験してきた人で、わたしの暗い気持ちを明るく照らしてくれる太陽のような人だと思った。       
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