貯金箱2

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******************** 私は自分のことが情けなかった。 貯金箱1つで取り乱してしまったこと。 湊を疑ってしまったこと。 父のことを知らなかったこと。 だから湊とは別れることを決めた。 彼には何も非はないけれど、 自分のことが許せなくて けじめをつけたかった。 湊の家を出たあとは、 会社から近くて 日当たりの良い部屋を選んだ。 夏を目前とした日差しは、 眩しいくらいに部屋全体を明るく照らし、 洗濯物の乾きも良い。 そんなお気に入りの日差しも、 引っ越して2週間が経つと 鬱陶しく思えてきていた。 うだるような暑さに耐えきれない。 昨年の夏はそんなこと思わなかったのに、 と彼の家を多少恋しく感じる。 ないものねだりとは こういうことなのだろう。 冷凍庫の扉を開けると、 ひんやりとした冷気が皮膚を擦り、 たまらなく気持ちいい。 棒状のアイスを1つ取り出し、 くわえながら定位置に戻って 再び携帯をいじる。 1人での休日の過ごし方を すっかり忘れてしまって、 無意味な時間ばかりを重ねてしまう。 アイスを支える木の棒が頭を出した頃、 突然手元の電話が鳴った。 知らない番号だったが、 通話ボタンに触れた。
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