貯金箱3

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数日後、段ボール箱が届いた。 送り主は中嶋という男。 「彼からしばらく預かるように 頼まれてるんだ。 だけど、やっぱり黙認しておけないし、 彼のためにもならないと思ってさ。」 そう言って彼から預かっているという 貯金箱を送ってくれたのだ。 久しぶりに手元に戻ってきた訳だが、 取り返すことが目的ではない。 貯金箱の中に2人の思い出を詰めた。 貰ったネックレス、プリクラ、 お揃いのキーホルダー。 もう取られたお金はどうでも良かった。 それなら何も知らずに 貯金箱を割った彼を驚かせたかった。 それが私なりの復讐だった。 再び送られてきた段ボールに 貯金箱を詰め直そうとした時、 あることに気がついた。 豚の足裏に書いたはずの 名前がない。 2人で貯金箱を買った日、 彼がこう言ったのだ。 「豚の足には悪運を払って、 幸運をもたらすって 言い伝えがあるらしいよ。」 「そういうの信じるタイプなんだ。」 「本当か嘘かなんて分からないけど、 信じて損はないだろ。」 「何か悪い人に騙されやすそうだね。」 「まぁ、人を騙すくらいなら、 騙された方がマシだよ。」 そう言ってたのに、 私のこと騙してるじゃん。 2人で過ごした日々が 全部が嘘だと思ったら、 目から次々と涙が溢れた。 日が延びたはずの夕日も すっかり落ちきって、 電気のついていない部屋は真っ暗になった。 真っ暗闇の中で 携帯のディスプレイの光だけが やけに眩しく光った。 湊からの着信だった。
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