貯金箱3

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「...」 咄嗟に通話ボタンを押したものの どんな気持ちで向き合えば良いか 分からなかった。 聞きたいこともあるし、 怒鳴りつけたい気持ちもある。 「麻衣、今どこにいる。無事か。」 約1ヶ月ぶりに聞く声は 聞き慣れた声のようで、 初めて聞く声のようでもあった。 「中嶋って男から連絡来てないか。」 あぁ、私に手を貸したのがバレたのか。 そう思った。 彼は友人の裏切りに気付き、 私に八つ当たりでもしようと 思っているのかもしれない。 だとしたら御門違いだ。 私を騙して傷付けて、 これ以上どうしようというのだ。 「俺は中嶋に騙されたんだ。」 「当然でしょ。 自分のやったことは、 巡り巡って返ってくるんだよ。」 「君も騙されているんだ。」 「えぇ、まんまと騙されたわよ。 おかげで3年も無駄にした。」 「違うんだ、俺じゃなくて中嶋に。」 もう誰の言葉を信用していいのか 分からなかった。 「裏切られたからって友達に 罪をなすりつけようとしたって無駄。 3年も居てあなたの本性を見破れなかった 私にも非があるわね。」 怒りとか悲しみとか悔しさとか、 そんな今の心中をぐしゃぐしゃに丸めて ゴミ箱に強く叩き捨てた感覚だった。 その余りにも強い勢いに多少怯んだのか、 暫しの沈黙があった。 「信じてくれなくてもいい。 ただ最後まで聞いて欲しいんだ。」 すぐ感情的になる私と違って、 彼は喧嘩をしても冷静を保てる人だった。 プラスの電極とプラスの電極。 同じ性質同士だと退けあうように 感情的な者同士だと収まらないが、 マイナスの電極を持つ彼が いつも私を繋ぎ止めてくれていたことを 思い出した。
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