2人が本棚に入れています
本棚に追加
********************
麻衣が家を出て行ったあと、
抜け殻のような家がもっと嫌いになった。
綺麗好きな彼女のおかげで
保たれていた清潔感は一瞬で崩れ、
出しそびれたゴミ袋が狭い部屋を
余計に狭くしている。
念願の挽き立てコーヒーも
散らかった部屋を前にしては
なんだか味気なく感じる。
退屈な部屋から逃げるように
休日は理由もなく
外出することが多くなった。
何気なく通りかかった
駅前の花屋の一角には、
肩を寄せ合うように
淡い紫色のラベンダーが
大人しく佇んでいた。
それとは対照的に、
夏の風物詩ともいえる向日葵が
看板娘を気取って店の入口を
華やかに飾っている。
僕は店の戦略とは裏腹に
ラベンダーに惹きつけられる形で
花屋へと歩みを進めた。
今の僕が求めているものは、
落ち着きや安らぎなのだろう。
「あの、すみません。」
入口を塞ぐようにして
向日葵を見つめる女性に声をかけた。
「あら、ごめんなさいね。」
声に反応して振り向いた女性は、
麻衣の母親だった。
最初のコメントを投稿しよう!