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「こないだお父さんの誕生日でね、
毎年ラベンダーをあげるのが
習慣みたいになってるのよ。」
「僕もあそこのラベンダーが
気になって立ち寄ったんです。」
「昔からお父さんも好きだし、
確かに綺麗なんだけど、
花言葉があまり良くなくてね。
疑い、不信とかそんな感じだったのよ。」
花言葉なんて気にしたことがなかったが、
紫色という見た目のイメージだけで
何となく分かった気になってくる。
「それは確かにプレゼントするには
躊躇われますね。」
「そうそう、
だから今年は向日葵にしたのよ。
お父さんは何も気にせずに飾ってたけど。」
麻衣から毎年花を贈っているお母さんと
贈られた花をちゃんと部屋に飾っている
お父さんの話は聞いたことがあった。
自分は家族間でプレゼントをする
習慣のない家で育ったため、
そのエピソードを聞いたときは
仲が良いのだなと感じた記憶がある。
お母さんとの立ち話を終えて、
僕はラベンダーを買って帰った。
自分用に花を買うのは初めてで、
男が花だなんて、という固定概念が
どうしても拭いきれず、
店員にはプレゼント用と伝えた。
丁寧にラッピングされた花を受け取ると、
それはそれで恥ずかしくなったが、
少量でも十分すぎる程に良い香りがして
心が落ち着いた。
疑い、不信。
僕の心中にぴったりな花だった。
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