Digital High School Girl

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Digital High School Girl

 ビルの一角、オフィスに設置されたデジタルサイネージと睨めっこしながら、悩む男の姿があった。 「みちるさん、調子はどう?」 「うーん、だめですね。やっぱり音声認識のところが、ゴミを拾ってうまく認識できないです。AI側のアルゴリズムは大体できているので、いいんですが、ここがうまくいかないと、話にならない」 「マイクアレイのビームフォーミングもうまくいかないか……そろそろリップシンクと同期するとか、別の方法考えたほうがいいんじゃない?」 「つむぐさんは言うだけですから、いいですけどね、作るほうはそんなに簡単な話ではないんですよ。メーカーさんにも大分がんばってもらっていますし」 「まあそうなんだけど、そろそろ製品化のプレスリリースも打つところだから、なんとか頑張ってよ。提携の話も色々進めちゃっているから」 「それは了解しています……私も早く解決したいとは思っているので」  AIキャラクターとコミュニケーションができるデジタルサイネージ「インフォロイド」の開発が進んでいた。透過液晶ディスプレイを利用して、疑似立体の等身大キャラクターと会話を楽しむことができる。  ボタン操作を必要とせず、会話だけでAIとコミュニケーションを成立させるのは、並大抵の努力ではうまくいかないことはわかっていたが、実現すれば、きっと社会に貢献できるという思いがスタッフ達を動かしていた。  なによりも、自分の老後を考えたとき、話相手がほしいというのもある。少子化で老人の相手をしてくれる人間も少なくなってくるだろう。これからの高齢化社会に向けたソリューション、社会貢献と都合よく解釈をしている。  産学共同開発企画で「インフォロイド」は開始した。協賛企業の水族館にプロトタイプが設置され、施設内の案内や、周辺観光スポットへの誘導などで利用されている。  プロトタイプのキャラクター名は「蟻十(ありとう)あんず」、水族館館長が命名してくれた。 「蟻十あんず? どういう意味でしょうか?」 「ありがとうを略してアリトウ、その複数形でアンズだ」 「はぁ…… いいネーミングですね!」  正直覚えにくい、ピンとは来なかったが、ここはクライアントの顔を立てておかねば。それに……どこか聞き覚えがあるフレーズが気になっていた。  ここでの実地検証を経て、製品版の開発が進められているところであった。オフィスには検証用の小型透過液晶サイネージが設置されている。  「蟻十あんず」は、協賛企業向けに想いを込めたオリジナルキャラクターであるため、製品化に向けて、汎用的に利用できる新キャラクターが必要になっていた。3Dモデルデータはできているが、まだ名前は決まっていなかった。そもそも、製品が完成しておらず、具体的なイメージがまだ持てていないからだ。
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