第I章 Story of Genesis

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 宇宙エレベーターの課題であったケーブル強化素材問題も、“メッシュカーボンマトリクス”の分子構造モデルが発明され、一気に建設が進んだ。  月面で発見された縦穴を基盤とした月面基地での調査中、月の裏側で地球上では存在しない炭素分子が採掘された。月の裏側は、小隕石が大量に衝突しているため、未知の原子・分子の宝庫となっていた。  従来のケーブル素材であるカーボンナノチューブは、サッカーボールのような六角形の分子構造からなるものであったが、新たに見つかった炭素分子構造は四角形、つまりメッシュ型であり、これ以上の強度を出すことができないほど強固なものであった。  RNN量子解析によって、この分子構造が解明され、大量生産されることとなった。  医療分野では“ナノアクチュエーター”の普及、ナノマシンによる体内治療で、ほとんどの難病が解決に進んだ。おかげ様で良くも悪くも100歳になっても、「体」は元気でいられる。残念ながら、「心」の悩みまでは解消されていない。  倫理上の問題で、ナノマシンの脳への移植は禁止された。臨床実験でわかったことは、人格が大きく変容して、躁状態を続けるためだ。「悩み」は人格形成のうえで重要なファクターであるということが、認知されている。  臨床実験を受けた被験者は残念ながら、元には戻れなくなってしまったらしい。同情する。
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