第I章 Story of Genesis

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 住居ユニットと言えば聞こえはいいが、年寄りを地球外に押し込める、いわゆる「高級老人介護施設」だ。宇宙エレベーターの用途は、建設当初、火星への遠心ロケット打ち上げ、太陽光発電などが想定されていたが、思わぬ方向への活用手段が普及を始めていた。  静止衛星軌道に近い高度にある中継ステーションの重力は、地球上の体感約半分以下。軽くて体への負担が少ない。つまり老後の生活には持ってこいの場所であった。無重力ではないので、生活もあまり変わらない。  富裕層の年配者にモニター公募したところ、応募が殺到、予約は10年先まで続いた。結果、本格的なファシリティビジネスにまで成長した。家族が休暇で遊びに来たとき、自慢ができるというのが、人気の本質のようだ。  結局どんなに高度な技術であろうとも、現実の人間生活に密着したサービスのほうが、普及が早いということが立証された。  私は富裕層ではないが、元々「軌道エレベーター協会」の正会員でプロジェクトに参画しており、この企画自体の起案者だ。  そのため、年齢的にもマッチング、まずは自分が率先して入居しなければならなかった。そこでサポートするAI、カリキュラムの設計を行い、自ら検証を行いながら、改善を進める役割だ。ただ本業ではない、本来はITサービスを開発、提供を行う企業の経営だ。  住んでから気づいたが、この住居ユニットは十字状の構造になっており、十字架のようだ。まさに……白い棺桶だった。  なぜこんなどうでもいい長話をするのか? それはおろらく私が老人だからだ。  老人は孤独なので、話相手がほしい。昔は体のあそこが痛いだの、ここの調子悪いだの、愚痴を言うことができたが、今は体のことが言い訳にならない。だから理屈話で相手をつなぐ。  人間には、大きく分類して帰納法、演繹法、類推法の三種類の思考法がある。こういうときは帰納法でロジカルに自己分析してみると、そういうことなんだなという結論に落ちた。いちいち理屈っぽいが許してほしい。
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