第I章 Story of Genesis

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 マキナは私のヘルスコントロールを行うARITO_ANZU(ARtificial Intelligence Total Object and Artificial Neural Zone Unit)であり、AIを構成する総合オブジェクト群とそれを格納するニューラルネットワークユニットのこと。外殻は3Dプリンターの普及でかなり容易に設計・実体化できるようになった。いわゆるヒューマノイドのようなものだ。  身体管理以外に秘書など、色々な仕事を手伝ってもらっており、私のプロジェクトアシスタントでもある。  そしてもうひとつ、厄介な仕事を抱えこんでいる。 「マキナ、例の大規模障害の件、進捗どうなっている?」 「ごめんね、この二年間、分析を行っているけど、根本的原因がまだ掴めていないの。もうちょっと待ってね」  マキナは首をかしげ、照れながら、そう答えた。  この言い回しは開発した私の……趣味だ。無意味なことを無機質に言われると、仕事がつまらなくなる。  二年前、量子ビットを使ったデータ転送ネットワーク“QUAN久音(くおん)”で原因不明の障害が発生し、自動制御交通機関の逆走・暴走などを含む大規模災害が発生した。久音は世界市場65%に採用されているネットワーク技術で業界標準であり、インターネットに変わり、今後全市場での一般化が予想されていた。  原因を究明するために組織されたチームに、我々もアサインされた。交通機関向けAIプラットフォーム「インフォロイド」を提供しており、幸いマキナの通信は旧型、従来のインターネットプロトコル機構で久音を採用していなかったため、難を逃れていたからだ。  新しいアーキテクチャを採用するのが、かなり面倒な作業だったので、見送りしていたが、そろそろ時流に合わせないと、時代遅れになるだろう。  こんな歳になっても、都合の悪いトラブルがあると招集される、若手が自主的になんとかすればいいのではないだろうか。まあ、かなり暇であったので、断る理由もなかった。  マキナも見た目は若いが、実年齢は…… 「マキナ、君はもういくつになったかな?」 「17才、高校生です」 「あぁ、そうだったね。永遠の17才……」  元気のいい返事だ。思わず笑みが浮かぶ。  少しいじわるな質問を考えてみた。シナリオがどう遷移するか、確認してみたかった。 「君は自分が17才であることを疑問に感じたことはないのか?」 「ないです」 「なぜ?」 「年齢はキャラクターの個性を表現するものだから」 「なるほど、私はいくつに見える?」 「100歳です」 「なぜ?」 「顔の年齢判断とプロフィール情報から、そのように見えるから」 「私が100歳なのに、なぜ君は17才なの?」 「ちょっと待ってね。 ……」  腕を組んで、首を傾げながら、少し考え出すマキナ。  なるほど、この辺になるとディープシンキングに遷移するのか、自分で作っていても気づかなかった。  こんなどうでもよい老人の質問、人間であれば、まともに相手をしてくれないだろう。 「私の年齢は気質で、あなたの年齢は経過年数だから」  話を聞いていると、マキナのほうが人間らしい気がしてきたな。 「ありがとう」 「どういたしまして」  ニッコリとマキナは笑って、照れた。
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