第I章 Story of Genesis

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 原因究明する中、ただの障害ではないことが判明した。一部の情報のデータログの時間軸が過去であったり、未来のものになっていることが事象として発見され、それによって、システムの指示制御誤動作を誘発した。量子ビットの「情報・データ」が時間軸をまたがり、錯綜を始めてしまったことが発覚した。  “現在”伝達すべき情報が、過去、未来に伝達されてしまう現象「TDS:タイムデフォールトシンドローム」と呼ばれている。どこかのテーマパークとたまたま同じ略称なので、検索しても当然テーマパークが出るため、一般にはあまり馴染みがない。  これによって、今来ている情報が「現在」なのか? 「過去」なのか? 「未来」なのか? を、判断しなければならなくなってしまった。  この現象は“情報”だけで、幸い物理現象までに発展はしていないが、応用できるのではないか? と妄想するスタートアップ企業も出てきている。  個人的には、ただでさえ面倒な状況なのに、さらに厄介なことにはなってほしくないと願っている。  久音をやめてしまえばいいと思うだろうが、もう後戻りできないところまで普及している。なんとかTDSを解決するしか、人類には道がなくなっている。こんなに早くSFのような状況が発生するとは、誰も予想していなかった。また事象が一般化してくると、それが普通に感じてくるから不思議なものだ。オゾン層を破壊するほどの大気汚染になっても、二酸化炭素を吐き出し続けるのと同じだ。 「タイムクランチサービス収益の前月比はどうなっている?」 「前月比105%ですね。今期収益では、前年比130%です」  売り上げ推移が上がってきている。タイムクランチは、無駄な時間軸情報を取捨選択し、粉砕するサービス。それだけ、この現象が社会問題として、大きくなりつつあるということ。  そして残念なことに、この数字は予想ではなく、「確定数字」だ。  未来のデータも現在に届く現象のために、知りたくもない情報までわかってしまうことになった。こういった安易な情報は比較的、入手がしやすい。  難易度が高い情報は、来たり、来なかったり。どうやら難しいテーマについては、不確定要素が大きく、データが迷い込むことがないということがわかってきている。  メリットもある。天災の事前予告だ。これが事前にわかると、自動で緊急避難発信がされる。このために被災者は大幅に減少した。  しかし、かつて悲惨な事故の情報が出てきたこともある。そういった情報は、報道管制が敷かれたが、きりがないため、事前に粉砕するサービスが立ち上がった。  それがタイムクランチだ。  誰もそんな情報を事前に知りたくないし、個人情報にも関わってくる。粉砕したからといって、その事故がなくなるわけではない。結局その時には、報道される。  タイムクランチは、旧来のブロックチェーン技術を応用したビットチェーンという技術を使っている。量子ビットの微細な変化を自動検知して、制御する。皮肉にもTDS大障害の対応のために、新しい技術が発明された。
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