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「つむぎさん、お電話が入っています」
電話と言っても、耳に付けたピアスのようなもの。ピアスフォンと呼ばれている。最近はファッション化して、色々なデザイン性があるものが増えた。女性はほとんどブランドモノを装着している。
しかし、この時代になってもモニターに表示されるアイコンは昔ながらの「受話器」。多分現代人は誰も見たことがないはずなのに、疑問を投げかける人はいない。
モニターも様変わりした。今ではスマートコンタクトに表示される仮想空間ディスプレイだ。これもいい加減、飽きてきた。また昔のように、ブラウン管テレビにつなげたゲーム機で、ブロック崩しをやりたくなってくるが、さすがにもう手に入らない。
「つむぎさん、どうもお久しぶりです。まもるです」
「まもる、そっちの進捗はどう? お前から連絡してくるのは、珍しいな」
かなり面倒なトラブルは、まもるに任せることにしている。彼のすごいところは、あまり動じることなく、淡々と仕事を進めるところだ。
おそらく世界破滅の危機対応をお願いしても、「……了解、やっときます」と言うかもしれない。本人からすると、「剣道部時代のしごきに比べれば、大したことはないですね」ということらしい。
マイナス面もある。こちらから連絡しない限り、まったく報告が来ない……
TDSへの対処を検討するため、「TDS対策協議会」が設立された。彼にはそのメンバーになってもらい、事象の研究・対策を進めてもらっている。
タイムクランチもその対処の中で生まれたサービスだ。
「やばいっす。ちょっと、やばいことがわかりました」
「……」
「つむぎさん、心拍数が急激に上がってますけど、大丈夫ですか?」
マキナが心配してくれるが、つっこまないでほしかった。マキナもそこまで気配りできるほど優秀ではない。
まもるは滅多なことで「やばい」を発言しない。つまり重要度「RED」ということになる。
「……あまり聞きたくないが、何が起きたのかな?」
「えーとですね、まずTDSが発生するのは、現在から前後20年、40年間の情報時差が出ることは、ご存じかと思います」
「もちろん、知っているよ」
「協議会では、年代ごとに分かれて調査を進めています。私は一番未来の20年後のログ調査を行っているんですが……」
「それで?」
まもるはいつも結論から述べる。遠まわしな言い方を嫌っているから。その彼がこれだけ前振りをするのは、珍しい。
「ログがパタッとなくなったんです」
「未来のログが消えた? それは事象が解消されたということなのか?」
「ふたつの結論を想定してるんですけど。ひとつはなんらかのきっかけで、事象が解消された。もうひとつ考えられるのは……」
「何?」
「妄想と言われるかもしれないですけど、世界が終了という可能性……」
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