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「あの、二人は、どういう関係なの……?」
恐る恐る尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「まあ、親戚、みたいな感じかな?」
「お前と一緒にされるのは不愉快すぎる」
「いやいや、それはお互い様でしょ」
どこまでも、反りが合わない二人のようだ。
けれど、どうしてだか、私はこの二人のやり取りをもう少し見ていたくなった。
二人と別れるのが、少し寂しい気がしてきたのだ。
そしてそんな私の気持ちの変化に気付いたのか、男と少女が同時にこちらを見てきた。
「俺も残念だよ。でももう行かなきゃ」
「そんな男に情を持つ必要なんてない。その男の名前を知れば、きっとそんな情は消え去るはずだから」
二人にじっと見つめられて、二人とも美形だな……なんてぼんやり思いながら、でも二人の話し声がちょっと小さくなってるようにも感じていった。
「え……?この男の人の名前………?」
そう言えば、名前も聞いてなかった。
いや、私の名前も教えてないのだから、別にそれが悪いわけでもないけれど………
「あなたの名前、なんていうの……?」
男の顔を見ながら訊いた。
すると男が、
「俺の名前?俺の名前はね―――――」
なぜだか分からないけれど、ふわふわと体が浮かぶような、ゆりかごに揺られているような不思議な感覚がしてくる。
気持ちよくて、心地良くて、次第に眠たくなってきて、瞼が閉じて…………
次に目が開いたとき、私は、自分の部屋にいたのだった。
仕事から帰ったままの格好で、靴も脱がずに、フローリングの床に寝転がっていたのである。
「………?」
まったく訳が分からない。
カーテンの掛かってない窓からは、まだ夜が明けきらない、夜と朝の境界のような微妙な色が差し込んでいる。
夢を、見ていたのだろうか………?
解せない頭を起こしてみれば、視界に入ったのは、右手だけ剥がれたネイル。
「夢じゃない」
唐突に強くそう思った。
そして同時に、あのナンパ男が最後に言った自分の名前を思い出した。
『俺の名前?俺の名前はね、タナトスだよ―――――
星降る夜、星打つ夜。(完)
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