星降る夜、星打つ夜。

2/8
前へ
/8ページ
次へ
カタン、と意外に軽い音がして扉が開くと、目の前にはまばゆい夜の光が広がっていた。 「すごい…」 圧巻の夜景に、無意識に声が漏れだす。 「だろ?この景色を見たら、悩み事なんて吹き飛んじまう」 私を招くように扉を押さえてくれてる彼が、愉しげに言った。 数十分前、私をナンパしてきた男だ。 最近彼氏と別れたばかりで、仕事もうまくいかなくて、モヤモヤしながらの帰宅途中、「お姉さん、綺麗な髪だね」と声をかけられたのだ。 一瞬、カットモデルの勧誘かと勘違いした。でもそうじゃなかったようだ。 俯いてた顔を上げたとき、視界に入ってきた彼は、私の髪なんかよりずっと綺麗な髪をしていた。 どこか外国のルーツを持ってるような色で、瞳も、顔の造形も、海外の映画に出てくる俳優のようだった。 いつもならナンパやキャッチの類は完全無視するけど、今夜に限ってはよほど参ってたのだろう、こんなナンパ野郎でも、話し相手を欲していている私がいた。 彼が言うには、私が相当落ち込んでるように見えたらしい。 だからそんな私が元気になるように、お気に入りの場所に連れていきたかったそうだ。 胡散臭さしかなかったけど、今夜の私はやっぱりおかしくて、彼のオススメの場所とやらに興味が湧いたのだった。 そして誘われるまま、この辺りでは一番高いというビルの最上階に来ていたわけである。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加