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カタン、と意外に軽い音がして扉が開くと、目の前にはまばゆい夜の光が広がっていた。
「すごい…」
圧巻の夜景に、無意識に声が漏れだす。
「だろ?この景色を見たら、悩み事なんて吹き飛んじまう」
私を招くように扉を押さえてくれてる彼が、愉しげに言った。
数十分前、私をナンパしてきた男だ。
最近彼氏と別れたばかりで、仕事もうまくいかなくて、モヤモヤしながらの帰宅途中、「お姉さん、綺麗な髪だね」と声をかけられたのだ。
一瞬、カットモデルの勧誘かと勘違いした。でもそうじゃなかったようだ。
俯いてた顔を上げたとき、視界に入ってきた彼は、私の髪なんかよりずっと綺麗な髪をしていた。
どこか外国のルーツを持ってるような色で、瞳も、顔の造形も、海外の映画に出てくる俳優のようだった。
いつもならナンパやキャッチの類は完全無視するけど、今夜に限ってはよほど参ってたのだろう、こんなナンパ野郎でも、話し相手を欲していている私がいた。
彼が言うには、私が相当落ち込んでるように見えたらしい。
だからそんな私が元気になるように、お気に入りの場所に連れていきたかったそうだ。
胡散臭さしかなかったけど、今夜の私はやっぱりおかしくて、彼のオススメの場所とやらに興味が湧いたのだった。
そして誘われるまま、この辺りでは一番高いというビルの最上階に来ていたわけである。
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