星降る夜、星打つ夜。

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オフィスフロアもあり商業施設も入ってるこのビルは、私も何度か来たことがあったけれど、こんな夜遅くに入ったことはなかった。 そもそも、こんな時間に入ってもいいのだろうか。 だけど彼は私の疑問など完全無視のように、おそらく関係者しか入ることが許されてないであろう電子ロック扉を何事もなく通過し、非常階段みたいに狭い所もスイスイのぼっていった。 「あなた、このビルの人なの?」 痩身の後ろ姿に問いかけると、 「まあね。俺はフリーパスなんだ」 得意気な返事が降ってきた。 「へえ…」 このビルの運営会社の人間ということだろうか? もしそうなら、ナンパ男は案外ちゃんとした仕事に就いてるのかもしれない。 端整な外見はモデルや俳優みたいで、富みすぎてる社交性は接客や営業の職業にも感じるけれど。 「そんなことより、ほら、着いたよ?」 彼は完璧にも見える微笑みを私に向けながら、無機質な扉を、カタン…と、意外に軽そうな音をたてて開いたのだった。 きらきらのビーズを撒き散らしたような光の粒達に、私は気持ちが前のめりに動いた。 けれど屋上に足を踏み入れたところで、そこにあった段差に躓きそうになり、反射的につかまった手摺りで右手の爪の先をこすってしまった。 その感触から、昨日セルフネイルしたばかりなのに……とため息吐きたくなった。 ああ、本当についてない。最悪。 そんな負の感情が巻き上がりかけたが、ふと、ここに先客がいることに気が付いた。 高校生くらいの少女が、スッと立ち、夜空を見上げていたのだ。 その傍らには、何やら天体望遠鏡のような物があり、それは専門家が使用するような立派な装置だった。 「チッ…」 背後では、ナンパ男の舌打ちが聞こえてきた。 先客の存在に苛立ったのだろうか?
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