星に願いを

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「流星群を一緒に見ない?」  と誘われたから、僕は彼女と二人で砂浜に佇んでいる。  一定のリズムで寄せては返す波の音が心地良くて、日常が神秘的な次元へと移動したみたいに感じてしまう。   「流れ星」  呟いて、目を閉じて、彼女は星に願いを託し始めた。 「何を願ってるの?」 「世界の平和」  尋ねて返ってきたのは予想外の答えで、僕は驚くと同時に彼女の純真さに心を動かされて、心臓が一際大きく高なった。  でも逆に、これじゃあ「君と付き合えますように」なんて願おうとしていた僕は馬鹿みたいだ。なんて重い自己嫌悪に陥りそうだったけど、まさにその瞬間に彼女が言ったのだ。 「いいよ」   と。 「世界を救えたら、付き合あってあげる」  と。  聞き間違いなんかじゃなくて、彼女ははっきりそう言った。  そしてそれは冗談ではなく、本気の言葉だったと、僕は理解させられた。  何故なら今、僕たちの前に海を割って巨大怪獣が出現し、それが大きく一歩を踏み出そうとして——光の粒子になって空に舞い上がっていったからだ。   この間、僅か一秒。  一秒後、怪獣の出現で発生した小さな波が僕たちの足元を濡らした。  僕も彼女もサンダルだったから、心地いい冷たさが肌に残った。 「今のは誰かの世界を滅したい願い」  彼女は足元を見ずに視線を水平線に向けている。  そこにあるのは、花火のように弾けて消える色とりどりの閃光の乱舞。 「一緒に世界を救うのを手伝って」  誰かの世界を滅ぼそうとする願いを、誰かの世界を救いたいという願いが打ち消している。打ち消しあっている。  それで彼女は一緒に願ってくれる人が欲しくて、僕を誘ったのか。  けれどそれならば、僕一人だけなのは何故だろう。人がいっぱいいた方が、願いの数が増えて有利になるのに……なんて思う程、僕は鈍感ではない。 「うん。わかった。一緒に世界を救おう」 「ありがとう」  僕と一緒に世界を救いたいから、彼女は僕を誘ってくれたのだ。  だから、星降る夜に僕たちは願い続けた。 「世界が平和になりますように」  僕たちの願いが世界を救って、夜が明けたら——僕たちはハッピーエンドを迎える。
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