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「あっ、表札。忘れてたー」
あたらしい名字が刻印されたステンレスの板を見て、手のひらで額を打つ。
あしたでいっか。つぶやいてから、いややっぱり、と思い直して、表札を手にした。
入れてくるだけだし、やっちゃおう。
表札を持って、玄関へ向かう。とびらを開けて、表札の到着を待っていた空白に表札を差しこんだ。
きちんと測った甲斐あって、表札はぴったりと収まった。測ったのは夫だけれど。
差しこんだ表札をまじまじと見ていたら、玄関が開いて、夫が顔を出した。
「あれ? もしかしてサイズ合わない?」
「ううん。ばっちり」
「どうしたの? そんなじっと見て」
「ああ、いや。なんか」
もう一度、表札を見上げる。
ふっ。柔らかな息をもらして笑った。
「やっぱり、へんな名前になっちゃったなあと思って」
「……そばだけじゃ足りないと思って、さっき、からあげ買ってきたよ」
「よりによって」
「共食い」
「やめてよー」
あなたがどうか、ずっとずっとしあわせでいられますように。
わたしは今日も、願っている。
(了)
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