1、

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

1、

 月曜の朝。教室に入り、席に着く。教室内は、俺と同じように席に着く生徒達が、いつものぼんやりした雰囲気に満ちていた。朝は眠いなあ、というなんとも言えない空気感。俺もその一部となる。  あくびしながら俺は、筆記用具と教科書を机にしまった。  愛読書の小説を読んでいるところへ、隣りの席の片桐仁が、いつものように話しかけてきた。 「オッス」 「おはよう」  短髪を立たせてピアスをした片桐は、なんとなくセクシーな雰囲気がある。ルックスというより、オーラがある感じだ。おそらく、今までつきあってきた恋愛遍歴が、そういう雰囲気をかもし出させるのだろう。度胸があるから、どこまでも女性に告白し続ける。そして、なぜかきっちりゲットする。恋愛感はちょっと微妙だが、友達づきあいする分には害がない奴だった。  片桐は、ニヤニヤしながら俺の小説を指差した。 「また同じ本か?」 「……だったらどうする?」 「お前、好きだよな。セリフに酔う、女の薄い恋の言葉とか。ゴミ同然じゃんかよ」 「いいからほっとけよ」 「男に都合のいい女はな、本の外にはいねえんだ」 「ふん。俺はただ、この小説が好きなだけだ」 「あ、そう。分かったよ、スフィンクス君」  スフィンクス……か。ちょっとだけイラッとした。差別用語、使うなよな。腹が立ったので、本を閉じてちょっとだけ口撃。 「お前の恋愛遍歴だって、人のこと言えないだろ」 「そんなことねえって。俺が殺人的にモテるのは、生まれつきだ」  片桐は声を上げて笑った。雑談を終えた片桐は、すぐ右横の自分の席に座った。やがて、携帯電話がなり、ベラベラと話し出す。新しい彼女だろうか。 「おはよー」  入れ代わるようにして現れた、元気な挨拶。ショートカットの女の子は案の定、沙里だ。 「おはよう」  朝からジャージ姿。おそらく、部活の朝錬があったのだろう。 「昨日の続きだけどさ」 「ええと、何だっけ?」 「友達付き合いの件」 「あ、ああ」  沙里は、遠くを眺めるようにして言った。 「こんな時代だけどさ。私は普通に友達付き合いして、普通に恋をしたいんだぁ」 「……生まれてくる時代、間違えたんじゃないのか?」 「ははっ。友達にも同じこと言われた」 「俺も友達だろ」 「そうだね」  沙里は、てへっと頭を小突いて見せた。漫画みたいな素振りを、平気でするなよ。この分だと、逮捕される可能性高いな……。 「なあ、沙里」 「なあに?」 「沙里の親は、娘がこんな感じで焦らないのか? 」 「あのねえ。蛙の子は蛙だよ」 「そうだったな。思い出したよ、沙里の親」  超アバウトなんだよな、沙里んちは。この親あって、娘有りだと思ったのをふと思い出した。  ちなみにうちの母は、俺の恋愛嫌いについて、すでに諦めている。恋愛法に触れ、一度逮捕されて、懲りないと息子の馬鹿は治らない、ぐらいに思っているだろう。あるいは、俺の心の傷を理解してくれている部分もある。その上での諦めなのだ。 「それで、友達付き合いの件なんだけど」 「ああ、まだ何かあるのか?」 「私が華菜ちゃんの代わりになる、とはいわないけどさー」 「無理だ」  即答。当然だろ。沙里が華菜の代わりになるだなんて、到底無理だ。  しかし、沙里は少しむすっとする。 「そんな、いきなり否定しなくても」 「性格が違い過ぎる」 「そうかな?」 「華菜は、そんな元気よくて、天真爛漫な子じゃない」 「私だって、悩める乙女よー」  沙里は、全然悩んでなさそうだ。悩める乙女は、そんな明るい口調でしゃべらないぞ。 「病弱な華菜は、あまり笑わないし。俺にしか心を開かなかった。読書が好きで、いつも本の話ばかりをしていた」  俺の話に、沙里は思わず苦笑。愛嬌よく、舌を出してみせた。 「私、全く本読まないや。はは」  俺は、深いため息をつく。 「じゃあ、無理だな」  沙里は元気よく首を横に振った。右手に握りこぶし。 「いや、私頑張る」 「頑張るって、どう頑張るんだ?」 「何か読むよ」 「具体的には?」 「うーん、そうねえ」  沙里は腕を組む。考えている姿も、どこか能天気な感じがする。 「トレーニングの本とか。筋トレのやり方とか。あとは……栄養の取り方の本」 「そんな本、華菜は読まないよ」 「え? じゃあ何を読むのよ?」 「文学とか」 「分かった。私も文学に目覚めるから。……よーし、来週の月曜。お互いに、最近読んだ本の感想を言い合おうか」  あんまり興味なかったけど、とりあえず俺はうなずいておいた。断る理由を考えるのも、面倒くさかったし。沙里は「友達付き合い、頑張ろうー」と元気よく言って、席に戻っていった。    一時限目の授業は、公民だった。  教師の三田村は、眼鏡をかけた華奢な男。  今日の内容は、現代の法律について。特に、恋愛法をクローズアップしていた。三田村は大きな声で、熱弁を振るう。 「……いいか、良く聞け。七法全書にあるように、法治国家日本は、憲法・刑法・民法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法・恋愛法の七法が定められている。みんなもご存知の通り、現代日本の象徴とも言える恋愛法とは、平ったく言えば『恋人がいない期間が一年を超えた人は、逮捕されて、恋愛奴隷市場で強制的に恋愛させられる』ってわけだ。それじゃあ、聞く。なぜこの法律が出来たのか? 奥原利久、どうだ?」 「は、はい」  俺は、慌てて席を立つ。ガタゴトと、無様な音がむなしい。   ええと、とりあえず教科書を開いた。それっぽくめくってみる。しかし、いきなりどんぴしゃで恋愛法のページを開けるわけもない。……あ、そうだ。目次を見ればいいんだ。俺は、最初のページをひらいた。 「いつまでやってんだ。もういい」  三田村はあきれた様子で、手で座れの合図をした。  俺は気まずくなりながら、座った。 「恋愛法が出来た理由は大きく分けて2つある。一つは、超少子化。もう一つは、バーチャル恋愛。いまや、恋愛法の登場により、『恋愛なんて、どうでもいい』なんて言葉は死語になった」  三田村は、クラス全体を見渡した。眼鏡を人差し指でずり上げると、説明を始めた。 「子供を生まない夫婦が増えてきたのは、周知の通り。人口は1億を割り、3千万人をきった。このままでは、日本という国はなくなってしまう。子供を産まない理由は、将来の金銭が不安だからというのもあるが、一番の理由は違う。若者が、恋愛をしなくなったからだ。一人の方が身軽。恋愛がめんどくさいと考えるようになった。恋愛は、二次元でするのが当たり前。思い通りにならない、三次元の恋愛は、クズだと考えられていた」  三田村は、黒板に大きくバーチャル恋愛と書いた。 「エリックスゲーム会社が開発した、スーパークローン人工知能。あれによって、現代の擬似恋愛ソフトは、ものすごくリアルになった。女の子の反応や言葉は、あらかじめプログラムされたものが出てくるのではなく、臨機応変に変わるという。そして、……三次元の恋愛は傷つくし、二次元で恋愛する方が楽しいという考え方が一般的となった。そんなアウトサイダーで馬鹿な男どもが増えた結果が、この法律ってわけだ。……もちろん、男だけではなく、女子もやはり二次元の恋愛を好んでいたという統計結果も出ている」  三田村は黒板に超少子化と書いた後、上から大きく×を付けてみせた。そして、そこから矢印を引っ張り、その先に「恋愛法」と赤字で書いた。 「法律とは、社会を縛ることが出来るし、人々に行動を強制させることが出来る。守らなければ、罰が待っているからな。……政府は考えた。日本を超少子化で、誰もいなくなる前に、手を打つ必要があると。そのためには、結婚を奨励する必要がある。そして、結婚を奨励するためには、その前段である三次元の恋愛を推進する。……実際、日本人口三千万人まで落ちたあと、恋愛法の施行により、五千万人まで回復したのだ。一億に戻るまで、恋愛法は継続されるだろうと、専門家は見ている」  いつも思うんだが、なんか論理の飛躍を感じるんだよな。反強制で、恋愛させるだなんて。恋愛に興味のない、俺みたいな人間のことも考えて欲しい。  三田村は、黒板に書かれた「恋愛法」の文字を指差した。 「きみたちは高校一年生だ。年齢は、15歳か16歳のどちらかだと思う。さて、ちょっと聞きたい。この中で、16歳の者は手を挙げなさい」  三田村は、鋭い眼光でクラスを睨みつける。  俺は三田村を不快に感じつつ、あたりを見渡した。  男女ともに、手が上がらない。下を向いている人が多い。うちのクラスは確か、8割方16歳だと思うんだが。  三田村は、バンッと教壇の机を叩く。そして、眼鏡の奥から鬼の眼でクラス全体を見渡し、怒鳴った。 「ウソつくんじゃねえよ!」  その瞬間、ほぼ全員が手が挙がった。脅しに屈した形だ。片桐も面倒くさそうに手を挙げた。 「よし、今手を挙げた人は、全員立て」  教室の男女の九割は、手を降ろすと席を立った。周囲はざわつく。 「……これから、何すんだ?」 「でも、逆らうと、またキレるしな」 「あいつ、めんどくさいんだよ……」  なんとなく、みんな良く分からないといった表情だ。こいつの言うことは、確かに良く分からない。でも、従わないとキレるから、とりあえず従っている感じだ。 「立っている人たちに、今から一つ、質問をする。必ず、絶対に、ぜえったいに正直に答えて欲しい」  三田村はウザい口調で言うと、教壇から降りた。そして、左前の学生から順番に、一言ずつ声を掛けていく。 「正直に答えろよ」 「は、はい」 「正直に答えろよ」 「分かりました」   ……。  必ず眼を見て、いや睨みつけて話しかけている。正直、気味が悪い。……何をしようと言うんだ?  俺の前にも来た。眼鏡の華奢な男は、体格からは想像も出来ないぐらい、迫力があった。 「正直に答えろよ」 「はい」  俺はにらみ返した。あまり迫力はないが、目を細め、眼力をこめた。  三田村はさっさと次の人のところに行った。  全員が終わり、再び教壇へと戻る。 「正直に答えることを、誓ってくれてありがとう」  三田村は、一人で拍手をした。  なんだ、このどうでも良い小芝居は?   平手がぶつかり合う音が独奏し終えると、コホンと軽く咳払い。そして、静かに口を開いた。 「いいか、きみたち。恋愛法とは、15歳を超えたら適用される法律だ。今立っている人たちは、15歳から1年が経過している。つまり」  俺は思わず、生唾を飲んだ。言わんとしていることが、理解できたからだ。つまり。 「つまり、今。彼氏、彼女がいないというのは、恋愛法を犯していることになる。……さあ、きみたち。彼氏、彼女がいる者は今すぐ手を挙げなさい」  静寂な時間が流れる。  しかし、すぐに全員が手を挙げた。片桐も挙げる。俺も挙げた。 「なるほど、よし」  三田村は、ドラマの悪役みたいに手をパンパンと叩いた。すると、黒スーツにサングラスのイカツイ男が何人もいきなり教室に入ってきた。奴らは教壇前、行儀良く一列に横に並んだ。正攻法で喧嘩したら、おそらく勝てないだろう。屈強な男達は、筋肉ムキムキで、いかにも鍛えている感じだった。強面の迫力に、悲鳴に近い声を挙げる女子もいる。 「今から、一斉レンケンを行なうからな。教室に入って来た皆様が、警察署からの依頼で派遣されてきた調査員だ」  レンケン、とは恋愛検閲の略。……うう、なんという時代だ。ただ、せめてもの救いなのは、こういう時代だからこそ。基本的にクラス全員、恋人がいるはず。いないのは、恋愛嫌いな俺とのんびりお姉さんの沙里の二人ぐらいじゃないだろうか。そもそも高校一年生の時期は、第二受験と言われている。この時期に誰かとカップルにならないと、逮捕だからだ。恋愛嫌いの俺も、本来はもっと身の危険を感じるべきなのだが。沙里もそうだ。誕生日前日に、お互いに答えを言い合おうとか、悠長にもほどがある。  ふと携帯電話を見ると、沙里からラインが入っている。……大丈夫?  バレないように、即行で返信。……なんとかする。  沙里はまだ、十六歳になってないから、捕まる心配はない。……問題は俺だ。もう、誕生日過ぎちゃってんだよな。  前から順番に、一人ずつ黒スーツのムキムキ調査員はインタビューを始めた。 「恋愛証明証は?」  俺の列の先頭にいる、金髪ギャルの涼子は、スポーツバックに手を突っ込んで、パッと一枚のカードを提示した。黒スーツの調査員はそれを奪い取り、じっと眺めた。  裏、表を確認。カードを持ったまま、タブレットを開き、タッチパネルを何回か押していた。小声で、数字と英字の羅列をつぶやいていた。何かの番号の照合をしているようだった。タブレットを見ながら、大きくうなずく。 「OKです」  黒スーツの調査員は、カードを返して、次の生徒に同じ質問をしていた。 「恋愛法違反の罪で、逮捕する!」  左前方から、大きな声が。……俺と沙里以外にも、相手いないバカがいたのかよ。  ふと見ると、顔色の悪い健二がうなだれていた。 「あれ? 健二は中学生のときから付き合っている彼女がいなかったっけ?」  首を傾げながら、俺は片桐につぶやく。 「別れたらしい」 「あんなに仲良かったのに?」 「恋愛障害が原因だ」  そうか、どうやらスーパークローン人工知能の相手にハマり過ぎたケースだ。もはや、擬似恋愛ではなく、完全にイっちゃっているというか。ゲームの世界と現実が区別つかないぐらい、どっぷりとバーチャルに落ちたか……。  健二は手錠をつながれると、黒スーツの男に「来い!」と怒鳴られ、教室の外に連れて行かれた。  このままでは……やばい。俺は視線を下げて、お腹の辺りを両手で押さえた。大事そうに、ようやく産んだ赤ちゃんの頭を撫でるように、やさしくやさしくお腹を撫でた。さらに、しゅんとした表情で、苦しそうな声を上げた。 「痛い、痛い、痛い!」  しばらくして、入り口で待機していた黒スーツの一人が、俺のところにやってきた。 「どうした?」 「どうもひどい腹痛で」 「我慢しろ」 「出来ないです。今すぐ、トイレに行きたいです」 「もう少しでお前の番だから、終わってからいきなさい」 「ダメです。もう漏れてしまいます」 「高校生なのに、しっかりしろよ!」 「無理なものは無理なんです!」  黒スーツのムキムキ男は、俺の腕をつかんだ。 「しょうがない。俺が同行するから、トイレに行って来なさい」  相手はサングラスをしているため、表情は読めないが、とりあえずOKしてくれて良かった。  出口に向かう俺を、三田村が俺を睨んでいる。しかし、三田村は何もしない。調査員が同行しているから、安心しているのかもしれない。俺は、お腹をおさえながら、大げさに悄然としたフリをして、調査員とともに教室を出た。  無言で歩き続ける二人。  1-B、1-Cを通り過ぎた。   従順に歩き続ける俺。   しかし、階段の前に来た瞬間、トイレを目前にして、俺はいきなり調査員の腕をとった。 「どうした? 早く行け」 「くらえ!」  背負い投げで、思いっきり投げ飛ばした。不意打ちで、無様に倒れる調査員。俺は、すかさず締め技をかけた。やがて、肉の塊は動かなくなる。失神と同時に解いたから、命に別状はないはずだ。口からよだれをたらしたまま、寝転がらせた。  俺は、階段をダッシュした。1階にスタッと降りて、下駄箱から革靴を出して、履いていると別の調査員がすぐに来た。俺は上履きをとっさに投げつけた。 「この野郎!」  勢い良く顔面にあたる。サングラスが割れて、破片が飛ぶ。  調査員は、うめき声をあげながら、顔をおさえている。   俺は、さっさと校舎を出た。  校門は風紀員の先生が立っている可能性が高いため、木に登って柵をジャンプし、側面から学校の外に出たのだった。 「お前、これは公務執行妨害だからな。恋愛法違反に追加の罪状がついて、5年か10年は刑務所から出られないんだからな!」  柵の向こうから怒声が俺の背中に響いた。  俺はひたすら走りまくった。  裏道に出ると、昼間っから抱き合う男女が複数いた。怪しいぐらい、熱く吐息をあげて、一心同体とでも言うべきほどに離れない。おそらく、恋愛病患者だろう。異常なまでに異性を求めているように見えることから、恋愛薬を服用しているんだと思う。飲むと恋愛依存症になりやすくなったり、恋愛薬無しでは恋愛できなくなったりするらしく、副作用があるようだ。  ……恋愛感情が抑えられない人、あるいは恋愛が出来ない人は、総称して恋愛病と診察される。恋愛嫌いの俺もある意味、恋愛病なのかもしれないが。……嫌な世の中になったな。  見苦しい風景なので、俺はあまり見ないようにして先を急いだ。  コンビニの角を右に曲がり、田中ドリーム医院の前まで来ると、携帯電話を出して、電話をしようとした……がやめた。盗聴、あるいは電波が発信されたことで、現在地がバレる恐れがある。俺は、この日のために準備したプリペイドの携帯電話を手に取り、以前に片桐に教わった、秘密の組織に掛けた。 「はい」  男の声が聞こえた。 「もしもし」 「どちらさまですか」 「先週の日曜に来たものです」 「ああ、あのときの方ですね」 「今、追われています」 「警察に?」 「違います」 「どういう状況ですか?」 「調査員です」 「ああ、なるほど。まあ似たようなもんですね」  電話の男は、納得の声を上げた。 「学校でいきなり一斉レンケンがありまして」 「あれ、高校生ですよね?」 「はい」 「大学ならまだしも、高校でやるのは、めずらしいですね」 「そうなんですよ、突然過ぎて。上の学年では、やってなかったのに。隣のクラスでもです」 「そういえば、市の条例で、一斉レンケンやると学校は補助金が市からもらえるようになりました。おそらく、その影響かもしれないですね」 「とにかく、助けて下さい」 「大丈夫です。お任せを」 「私はどうしたらいいですか?」 「今、場所は?」 「田中ドリーム医院って、ご存知ですか」 「あ、あそこは危険です」 「ええ!」  思わず、俺は後ろを振り返った。医院は本日、休みのようだった。人の気配もない。 「今日は休みみたいです」 「そうですか、良かったですね」 「ちなみに、何が危険なんですか?」  ……すぐに返事がかえってこない。少し考えているようだ。  電話の奥で、思案に暮れる人の映像がなんとなく浮かぶ。 「まあ、……とにかく。恋愛医療を扱う、ドリーム医系は大体危険です。他の場所で、我々と合流しましょう」 「わかりました」 「場所は……」  俺は言われるがままに、メモをとった。追ってはまだ来ていないようだった。     数分後、俺は黒い外車に乗った。とりあえず、この場はしのげたようだった。   それにしても、本当に恐ろしい法律だな、恋愛法とは……。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!