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街を一望できる高台。僕はそこから、空と街を眺める。
キラキラと星が煌めいて、家の灯りが煌めいて。
「綺麗だなぁ……。」
柵から乗り出して、手を伸ばす。光を掴もうと握る――けれど、何か掴めるわけではなかった。
目の前に持ってきて広げても、その手のひらには、当たり前だけれど何もない。
「……願い星様。どうか僕の願いを叶えてください。」
目を瞑って、手を合わせて、僕は唱えた。その声は誰が聞くでもなく、星の煌めく空間に溶けて、消えていく。
ゆっくりと目を開けた――と同時に、流れ星が流れた。えっ、というつぶやきが、口から漏れる。
「願い星様に……初めて、願いが届いた。ほん、とうに?」
星空の下で願い事をすると、願いをした人にしか見えない、流れ星が流れるときがある。それは天からの、願い星からの、願いを受理したという合図。
「嬉しい、なぁ……。これで、やっと。」
それからしばらく、星を見ていた。ここが、ひとりの時間が、僕にとって最高の時間。
少し冷たい風が、たまに吹く。カーディガンではさすがにしのぎ切れなくて、ぶるっと身震いしてしまった。
それでも……ずっと見ている。星を、家を。暖かい、その灯りを。
「僕も……入れてよ。入れて欲しいよ。」
そうつぶやいたとき、涙がそっと零れた。頬を伝って、地面に落ちる。普段は聞こえることもあまりない、涙の落ちる小さい音が、今はものすごく大きく聞こえた。
「この暖かい灯りの中にも……本当は暖かくない光も、あるんだろうなぁ。」
また手を前に伸ばし、今度は灯りを人差し指で触っていく。もちろん、実際に触れるわけはない。どれだけ伸ばして、触っても、指先はひとつも暖かくなんてならなかった。
僕の家の灯りは、暖かくない。違う誰かから見たら、今僕自身が見えているように、僕の家すらも暖かく見えてしまうのだと思うけれど。
痛くて、苦しくて、冷たさしかない家、僕の周り。暖かくなんてないその場所から早く――逃げ出したかった。
「一番、綺麗な逃げ方なんじゃ……ないかな。」
家の灯りを見るのが辛く、苦しいものに感じてきてしまう。心を落ち着かせようと、また星の輝きを、目にいれた。
本当はもうないかもしれない、光。ほんの何分前の光もあれば、何億何万年前の光もある。
――あの光たちはずっと、ひとりで生きているのかな。
そんなことを考える。
ふと時間が気になって、持っていたスマホの画面をつけた。その眩しさに顔をしかめたけれど、それよりも時間に目を行かせる。
もう十四時五十分。
三時まで、あと十分になっていた。
あと少し、あと少しなんだ。やっと――本当に。
こんな僕を責める人は、いないはず……と、いくら見上げても飽きない星を、また望んだ。
ゆっくり……刻々と時間は進んでいく。
少し。いや、ものすごく長い時間が経ったと思えた時。
すっと――身体の力が抜けた。
重心が崩れ、音を立てながら、仰向けに倒れる。
苦しくも、痛くもない。それなのに、身体は一瞬で動かなくなっていた。
そっと空を見る。たくさんの星が、すっと流れては消えていった。
僕への鎮魂歌のように。
ずっと星が降り続ける。
綺麗――と声を出そうとした。でも、口すら少しも動いてはくれない。
僕の願いは、流れ星が流れ続ける夜空の下で、苦しむことなく死ぬこと。
贅沢な消え方。本当に綺麗で、人生で一番良かったと思えた。
目も、どんどん力が入れられなくなって――閉じていく。
もう思い残すことは無いよ……。
ゆっくりと沈む意識。
まぶたの裏には、まだ焼き付いた夜空が映っていた。
――ありがとう、流れ星様。僕は幸せ者です。
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