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第二話 千歳と呪文とピーナッツぅ!
千歳は驚いた。
黒猫がいきなり「自分は死神だ」と言いだしたのだ。
「し、死神? 私死んじゃうの? やだよ。まだ十六年しか生きてないんだよ」
すると「死神」と名乗る黒猫は薄ら笑いを浮かべて話し始めた。
「大丈夫じゃ。お前にはまだ寿命がある。殺しても死なんじゃろう」
「じゃ、私は死なないのね。よかった」
「じゃ、一安心したところで本題に入ろう。そのお前さんの人生を好転させる方法じゃがな」
「う、うん」
千歳は興味津々次の言葉を待った。
「徳を積む事じゃ」
ガクッ!
「徳? 何それ。解んないよそれじゃ。もっと具体的に言って」
「まあ、そう急ぐな。順を追って話すから安心せい。まこと、現代人はせわしくてかなわんのう」
「んん」
千歳は口を真一文字に閉じて話を聞いた。
「これからお前に二つの力を授ける。一つは俺たち死神が見える能力。そしてもう一つはその死神を退散させる呪文じゃ」
「わあ、能力と呪文ね。魔法少女みたいだね」
「相変わらず訳の分からん事を言うな、お前さんは。まあよい、よく聞け。人にはいずれ死期が訪れる。その死期が近い者には必ず死神が取り付いているのだよ」
「へえ、そうなんだ」
「で、その死神が足元にいる場合は、そいつを退散させれば死期を取り消す事が出来る。つまり生き延びる事が出来るのじゃ」
「はあ、なるほどね」
「で、その死神を退散させる為の呪文をこれから教えるからよく聞け。一度しか言わん」
千歳は固唾を飲んだ。
「う、うん」
「『アジャラカ・モクレン・ピーナッツ・テケレッツノパ』といって二回拍手をするのじゃ。簡単じゃろ」
「ハハッ、何それ、変なの。でもそんなんでいいの?」
「それでいいのじゃ。死神仲間ではこれで退散するという申し合わせになっておる」
「へえ」
「これが徳積みになるという訳じゃ」
「それが徳積み?」
「そうじゃ。さっきまでは『死』しか道が無かった者が生きるチャンスを与えられる訳だからな。それが人救いになり、徳になる訳だ」
「ふうん」
「そしてそれを地道に繰り返していれば、その徳によって人生は好転し、アイドルだって社長だって落語家だってなれるのだ」
「なんでそこで落語家なの? まあいいや。アイドルになれるかも知れないんなら、私やってみるよ」
すると今度は死神の表情が険しくなった。
「ただし、死神が頭に乗っている時は手出しをしてはならん。そいつはもう寿命だから何をやっても助からん。下手に手出しをすると大変な事になるからな。これは絶対に守れ。よいな」
「う、うん、解った。頭に居るときはダメ。取り扱い注意って事だね」
「そうだ。なかなか物分りがいいではないか」
そして千歳は呪文の復唱を始めた。
「えっと、なんだっけ。アジャラカ・モクレン・ピーナッツ・テケレッツノパって言って二回手を叩くんだよね」
パン、パン。
するとさっきまでいた黒猫が、フッと煙の様に姿を消した。
「あれ? 死神さん。死神さあああん。あ、そうか。私が呪文を唱えたから死神さん消えちゃったんだ。へえ、すごいなこれ」
千歳はスマホの時計をチラッと見た。
「あ、大変。電車が来ちゃうよ。急がなきゃ」
彼女はせかせかと駅に向かって走って行った。
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