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6
エドキエルが寝室に入ってから、ユフィネが入る。
これは、結婚してから変わることのない習慣のようなものだ。
ベッドの上で、天空に輝く月を見上げるエドキエルは、入ってきたユフィネを見た。
「疲れたかい?」
その優しい声にユフィネはニッコリ微笑んだ。
「いいえ、全然」
「私は疲れたよ……」
血色のよいユフィネと、青白い顔のエドキエル。
ユフィネはエドキエルの隣に座り、下から彼の瞳を覗き込んだ。
その瞳に映るものが、ユフィネの今日の『お楽しみ』なのだ。
「エドキエル。可愛い私のエドキエル。なんて綺麗な瞳。懺悔と後悔が滲み出る、良い色をしているわ」
「……ユフィネ。私は辛いよ。もう壊れてしまいそうだ。心にも思ってないことを君に言うなんて」
「そうね。わかるわ。でも、お願いしたでしょう?私の好きなものは、ここで、あなたの切なく悲壮なその瞳を眺めることなんだって」
「だとしても……いつまでこんなこと……」
エドキエルは俯いた。
ユフィネは両手でエドキエルの頬を掴み、その瞼に口付けた。
「エドキエル。あなたがしてくれないなら、他の誰かを探さなくちゃ……例えば、バロック侯爵とか……」
ユフィネの言葉に、エドキエルはハッとして顔を上げた。
「ダメだ!!アイツは君に気があった!絶対にダメだ!」
「ふふ。そう?」
「そうだよ……ユフィネ、お願い。何でもするから、私を捨てないでくれ……どうか……どうか……」
エドキエルはユフィネの膝にすがり付くように懇願した。
彼の柔らかな髪を撫で、ユフィネは一人微笑んだ。
それは女神の微笑みであったのか、悪魔の微笑みであったのか。
どっちにしろ、エドキエルの妄信的な愛はユフィネのものだった。
婚約者に定められた幼い日。
それからずっと、ユフィネはエドキエルを懐柔してきた。
いろいろな快楽を教え込み、そこから逃れられないように手枷足枷を掛け、まるで、媚薬を盛るように少しずつ自分のものにしていった。
ユフィネの変わった性癖についてこれるように、エドキエルを調教するのは簡単なこと。
歪んだユフィネに素直なエドキエルが抗う術もなく、彼は年を追う毎に彼女にのめり込んでいった。
そうして結婚した現在、ユフィネは自分の性癖を満たすべく、エドキエルを最大限に活用している。
ユフィネの一番の愉悦は「エドキエルの美しい瞳を激しい後悔と罪の意識で染め上げる」こと。
その瞳で見つめられると、ユフィネはもうどうしようもなく体の芯が熱くなり、絶頂にも似た快感を覚えるのだ。
「私を罵って、詰って、苦しめて。そして、あなたの心を良心の呵責で満たし、その罪に濡れた瞳で私に懺悔なさい。愛してくれと懇願なさい」
伏せたエドキエルを起こすと、ユフィネはその頭に腕を伸ばした。
小さく震える体を抱き、そっと、自身の胸に抱え込む。
ユフィネの胸に顔を埋めて、エドキエルは呻くように言った。
「何でもする……君のために……だから私を捨てないで……愛してくれ……!」
二人はそうやって、毎夜互いの愛を確かめ合った。
誰にも理解出来ない、理解されるはずもない……2人だけの愛の秘密。
それが、ラブグッド公爵夫妻の奇妙な秘密である。
~fin~
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