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「おい!乞食!この辺りで子供を見かけなかったか」
「子供なら俺んちに遊びに来てるよ」
「何?お前に家があるのか?」
「うん、つれてってやろうか」
「う~ん」と男は顎を摩りながら低く唸り、俺を嘗め回すように見ていたが、他に手掛かりがないし信じるしかないと思ったらしく、「じゃあ、つれてけ」と言った。
俺は男を連れて金時山の岨道を登って行き、植生の少ない風衝地にぽつんと立つ茅葺きの陋屋に着いた。
「ここがお前の家か?」と男はしんどそうにぜーぜー言いながら聞いた。
「そうだ」
「えらく風当たりの強い寂しい所だ。その点はお前に相応しいが、勿体ないな、お前にはハッハッハ!」
「俺だけで住んでるんじゃないんだ」
「何?」
「おかあがいるんだ」
「何、お前の?」
「当り前だ」
「嘸かしブ女だろうな。この親にしてこの子ありかハッハッハ!」
「それがとっても綺麗なんだ」
「ハッハッハ!そんな法螺、誰が信じる」
「じゃあ、見てみろ!おかあ只今!」と俺が言うと、「お帰り金時」とおかあは玉を転がすような声で言いながらつっかえ棒を外して引き戸を開けた。
「どうだ!綺麗だろ!」と俺が言うと、男は驚きのあまり生唾をごくりと飲み込んで何も言えず唖然としてしまった。
「ハッハッハ!驚いたか、ま、無理もない。何でこんな色白美人から俺みたいな赤ら顔のきたねえ奴が生まれるんだと思うのが当然だからな。だけどさあ、おかあは赤い龍と交わったから俺を生んだのさ」
「な、何!赤い龍!」
「そうさ、そんで、おかあは山姥になったのさ!」
「な、何~!」と男が叫んだ途端、左右の口角が鋭く裂けたおかあは、そのでかい口で男の頭にがぶりと食いつき、強靭な顎でガリガリゴリゴリ食べて行き、口が血まみれになって腹が子供を食った時の倍に膨れ上がった。でも大丈夫。一日で完全に消化して元のすっきりした腹に戻り、元通りの綺麗なおかあに返るのだ。
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