赤ら顔の金太郎

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 取り敢えずおかあが満腹になったから今度はおとうを満腹にしなくてはと俺は第二の男を探しに出かけた。だけど中々出くわさなくて黄昏れて漸う見つけられた。そいつは俺に一番酷い苛めをした子供の父親で自身も子供と一緒になって散々俺に罵詈雑言を浴びせた奴だ。で、俺は腹に一物秘めながら男に声をかけた。 「分け入っても分け入っても青い山ってか」 「おっ、お前は乞食!」 「俺は坂田金時って言うんだ」 「何、生意気に名前があるのか」 「ああ」 「そんなことはどうでもいい。俺は道に迷ってしまった。お前は分かるか?」 「俺は分かるよ。この辺に住んでるから」 「おうそうか、それは良かった。じゃあ道案内してくれないか」 「子供探せてないのに帰るのか」 「もう日が落ちてしまうからしょうがねえ」 「そうか、何なら子供のいる場所も教えてやろうか」 「おう、お前、知ってるのか?」 「ああ」 「そうか、それで無事か?」 「ああ、道に迷ってたところを俺が助けたんだ」 「そうか、それは良かった。じゃあ、早速案内してくれ」 「あんた、さっきから随分と厚かましいな」 「ん?」 「俺を散々罵倒した癖にそんな軽々しく頼めるんだもんな」 「あ、ああ、それは悪かった。謝るよ。すまなかった」と男は言って気持ち頭を下げた。 「へへへ、それだけで許されると思うのかい?」 「えっ」と男が俺に見入った所で俺は夜の帳が下りて星が瞬く空を仰いだ。 「嗚呼、丁度いい。今宵は良い夜になった。星がいっぱい出てる。こんな夜は芦ノ湖から山神が出て来るよ」 「山神?」 「ああ、と言っても八岐大蛇じゃなくて赤い龍がね」 「何、赤い龍?」 「ああ、お前、人身御供になりなよ」 「な、何・・・」と男は絶句した。 「ひっひっひ、哀れな奴め」 「な、何が哀れだ!赤い龍なぞいる筈がない」 「いるよ。俺のおとうだもの」 「はぁ?は、ハッハッハ!何ぬかす、口から出まかせ言いやがって!」 「出まかせなもんか。ほら、あっちを見ろよ!」  男は俺の指差す方を見ると、びっくり仰天して腰を抜かした。芦ノ湖から巨大な噴水みたいに飛沫を上げながら赤い龍が飛び出して来て天高く舞い上がり星明りを浴びた鱗全体をきらきら輝かせながら滑空して俺たちの目の前に降りて来た。それはまるで星降るような夜空から実際に星が降って来たようだった。  男は自分の5倍はあるかと思われる巨体に目を飛び出さんばかりに丸くして驚愕し、脂汗をだらだら流して蒼褪め、今にも気絶しそうだった。 「おとう!こいつが人身御供になるってさ。俺を酷く苛めた奴だから蛇の生殺しにしてじっくり存分に味わってよ!」 「ああ、金時!ありがとうよ!」とおとうが言うと、男は恐怖の極限状態に陥り、恐ろしさの余り意識がはっきりして気絶したくても出来なかった。だから俺の望み通りになって男はおとうにまず四肢を食いちぎられ、その儘、丸一日放置され、地獄の苦しみを地獄の底まで味わった。その間、のたうち回ることも出来ず心臓ばかりをバクバクさせて悶絶する男に俺は小石を投げつけたり罵声を浴びせたりするような卑劣な真似はせず獣に食われないように偏に見守った。そして男は出血多量で死ぬ前に再びやって来たおとうに徐々に胴体を食われて行き、仕上げに脳みそと心臓を食われてお陀仏になった。  俺は男の断末魔を瞼に焼き付け胸がスーッとして溜飲が下がった。
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