女装レイヤーだが相互さんが会社の同期♂でしかも俺に惚れててヤバイ

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 その夜、アパートで寛ぐ水沢のスマホに〝みけお〟からこんなDMが届いた。 『ばれてしまったかもしれません』  どうやら〝みけお〟、いや篠山は、昼間の件で相手の男――水沢に気持ちがばれてしまったのでは、と気に病んでいるらしい。 『絶対に、ばれてしまったと思います。どうすればいいでしょう。誤解だと伝えるべきでしょうか』  相変わらず文面から伝わる想いは切実だ。昼間に本人の、今にも泣きそうな横顔を見てしまったから尚更そう思う。が、ばれてしまったも何も、すでに水沢は彼の想いを知っている。篠山には悪いが、こんなものは無意味な悩みだ。  とはいえ、〝わかめ子〟がそんなことを口にできるはずもない。篠山の中では、両者は全くの別人なのだから。 『大丈夫ですって。それに、多少匂わせるぐらいがちょうどいいんじゃないでしょうか。相手の反応から、攻略のきっかけが掴めるかもわかりませんし、それに相手としても、いきなり告白されるよりは、事前に匂わせてもらったほうが心の準備ができて良いのでは?』  そう、いつもの〝わかめ子〟のノリで打ち返してから、自分がとんでもない失態を犯してしまったことに水沢は気付く。  何が攻略だ。ここで言う攻略相手とは他でもない水沢自身で、その水沢に、篠山の気持ちを受け止めるつもりがない以上、こんなアドバイスは無意味でしかない。そもそも……受け止められないだろう。あいにく水沢は異性愛者で――同性を愛した経験がないから、多分、そうなのだろう。だからきっと、篠山の想いを受け取ることはできない。たとえ同情や罪悪感で付き合ったとして、きっと、余計に篠山を傷つけてしまう。第一、そんなものは愛とは呼ばない。  なのに。  未だに、こんな気を持たせるメッセージを返してしまう。要するに、悪人になりたくないのだろう。善人でいたい。少なくとも、そのふりだけは続けていたい。見栄っ張りというより、憎まれ役を背負う度胸がないのだ。  そんな卑怯者を、どうしてあいつは…… 『そもそも、みけおさんはどうして彼がお好きなんです?』  打ち込み、送信。ところが時をほぼ同じくして、篠山から先程のメッセージの返信が届く。 『逆に迷惑になりませんか。異性ならともかく、同性にこんな感情を向けられて』 「迷惑……」  これまで何度となく〝みけお〟が繰り返した言葉。が、相手があの篠山と知った今は、余計に胸に来るものがある。  きっと、篠山は今までもずっと、自分の想いが迷惑になってしまう世界で生きて来たのだ。あの大きな図体を、いつ見ても萎れたように丸めているのも、あるいは、こんな悲しい世界で生きて来たから……    ……でも俺は、可愛いと思った。  あの時、耳まで真っ赤に染める篠山に懐いたのは、拒否感でも嫌悪感でもなく、可愛い、という素朴で素直な好意だった。 『迷惑だなんて。むしろ、もっと堂々と喋ったほうが――』  そこまで打ち込んで、水沢は我に返る。  確かに、昼間の篠山が見せた反応は愛らしかった。が、だからといって彼の感情を受け止められるとは限らない。あれは、ひょっとすると一種の同情から生まれた感情だったのかもしれない。とにかく……これ以上は無責任なアドバイスを控えるべきだ。  そんなことをつらつらと考える間にも届く新たなDM。二つ目の質問の答えだろう。が、それは理知的な篠山にしては何とも言葉足らずで、何より、不可解な内容だった。 『あの人だけだったです。あの人だけが、ずっと、僕を見ていてくれたんです』
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