女装レイヤーだが相互さんが会社の同期♂でしかも俺に惚れててヤバイ

2/16
103人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 水沢には、人には明かせないもう一つの貌がある。女装専門コスプレイヤー〝西園寺わかめ子〟としての貌だ。  ツイッターのフォロワー数は約五万。高クオリティかつ再現度の高い衣装と、何より、メイクやポージングも含めた表現力で、コスプレ界隈ではそれなりに名前が知られている。イベントに参加すれば毎度のようにファンに囲まれ、スタジオや宅コスの写真も、アップすれば必ず四桁以上のいいねとRTを稼ぐ。  そんな、人気女装レイヤー〝わかめ子〟のアカウントが彼にフォローされたのは、今から一年ほど前のことだ。  ネット上で〝みけお〟と名乗るその人物は、出会った当時からファンの鑑であり続けた。〝わかめ子〟がアップする写真へのいいねとRTは当たり前。時に熱のあるコメントでモチベーションを支え、時に厄介なトラブル処理を〝わかめ子〟の代わりに引き受けてもくれた。見当違いなパクリ疑惑で見知らぬ絵師が絡んできた時には、英司の代わりに論戦を引き受け、完膚なきまでに相手を叩きのめした。また〝わかめ子〟がコスプレのまま女子更衣室に侵入したなどと囁かれた時も、諸々の証拠からそれがデマであることを証明し、しかも、噂の火元である女性レイヤーから謝罪の言葉まで引き出した。  いっそ怖いほどの献身。だが〝みけお〟は、そうした恩を盾に〝わかめ子〟に親密な関係を迫ることはしなかった。あくまでもファンとしてのわきまえを保つその振る舞いは、もはや忠実な騎士と呼んでも差支えがなかった。  だからある日、〝みけお〟が同性への苦しい恋路を打ち明けた時、むしろ水沢、いや〝わかめ子〟は前のめりで相談に乗った。  今でこそ社会全体の偏見も和らぎつつある同性愛だが、個人同士の話となると難しい点はまだ多い。そもそも恋愛の大前提として、相手との性癖が合致しないかぎり関係は成立しない。相手が同じ同性愛者なら、あとは好みの問題になる。が、そうではないのなら、〝みけお〟の恋はアプローチの権利すら得られずに終わるのだ。  それでも〝わかめ子〟は真摯に〝みけお〟の相談に乗った。これまで世話になった恩もある。が、そうでなくとも〝みけお〟が吐露する想いはいつもまっすぐで、真摯な願いと、微笑ましいほどのピュアな愛情とに満ちていた。彼の想いが実れば良いと、〝わかめ子〟は、いや水沢は我が事のように願っていた――  あの、夏のビッグサイトで〝みけお〟本人と出会うまでは。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!