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港の近くにある倉庫。
貿易で使用していたのか以前はこの付近は人が多く栄えていた。
しかし、今や人の気配がなくひっそりとしている。
当然、使用されていない倉庫は何処も封鎖されていた、が一つだけ明かりが点いていた。
その倉庫の中央には一本の支柱があり、そこには少女――――神白が縛られていた。そして鎖に巻き付かれ、身動きが取れずもがいている神白を無視する二人の人物。
一人は肥満体形で如何にも人相が悪い男性。
そしてもう一人はサングラスにシルクハット、タキシードを身に着けている人物。
それだけなら英国紳士に見えなくもない。しかし肌が露出している部分には包帯が巻かれていた。そう――――包帯人間のように。
「……殺すなら殺して」
「だから何度も言っているでしょう。貴方は彼を連れてくる為のおとりなのですから。それまで貴方は人質になって貰いますよ」
呆れた声で包帯人間は答える。神白はそれを侮蔑するような眼差しで二人を眺めていた。
「こいつッ! 卑賎の身でこの俺様に対して何て目をしてやがる!」
「――――っ‼」
小太りの男が神白を蹴とばす。その衝撃で神白の身体は柱に押し潰される形になった。
「駄目ですよ恭賀クン。この子を此処で殺したら」
「分かっている! ……おい! 本当にこれが終わったらこいつを俺にくれるんだろうなァ!」
注意された男――恭賀が包帯人間に問いかけるが包帯人間は興味がなさげに答えた。
「ええ、彼が私達の元へくれば彼女は好きにしていいですよ」
それを聞いた恭賀は薄気味悪い顔を浮かべた。
「そうこなくっちゃなあ。所で本当にあんたが求めている相手は来るのか?」
「――――どうでしょうかね? 来る可能性は五分五分といった感じですかね」
「なんだそりゃ。まあ、来なくてもこいつは俺の物だしな。早く終わらせたいぜ」
神白に近づくと恭賀は顎を手で持ち上げた。
神白は抵抗するが鎖のせいで身動きがとれず、恭賀にされるがままでいた。
「ハッ! あと少しでお前は俺様の物だ。十分に可愛がってやるからな」
「……黙って」
その言葉を聞いた恭賀は激昂した。
「――――ッ! なめた態度取りやがって!」
ぐしゃり、と神白の肉体から響く。彼女は声も上げずに前のめりに倒れた。
呼吸を整えると恭賀は唾を吐き捨てる。
「ったく、いい加減蹴るのも飽きてきたぜ。次は顔面パンチだな」
神白を無理矢理起こすと恭賀は彼女の髪を掴んだ。
「おら、早く俺様に泣いて詫びを入れろ。助けてください。貴方の物になります、ってな」
「……っ、誰が言うか」
神白の最後の抵抗。すでに彼女は虫の息だった。
「そうかそうか。なら――――言うことを聞くまで殴らなきゃなァ!」
恭賀が神白に向かって拳を振りかざした瞬間、彼女は目を瞑った。
今まで散々な人生だった。
それについて特に何も思わないし、とっくに諦めていた。
だけど悠馬と過ごした日々は何よりも輝いていた。初めてチーズトーストを食べたこと、初めて人の優しさに触れたこと。
彼女の目には幸せな日々が浮かんでいた。
(助けて……)
神白は心の中で念じたその時。
「止めろ‼」
扉を開ける音が倉庫中に響き渡った。
恭賀は振りかざした手を止め、神白が目を開く。その場にいた全員が音がした方向へ顔を向けた。
「――――神白ちゃんから手を離せ」
「……ゆうまぁ」
そこにいたのは一人の青年だった。
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