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1章1節 出会いは夜、
六月も後少しで終わろうとする頃、僕は夜道を歩いていた。
なんでこんな時間に歩いているかというと今日はバイトの日。しかも閉店間際まで客がいたのでいつもより帰る時間が遅くなった。
おまけに外は雨。自転車が使えないのも深夜に歩いている原因だ。
「……本当に最悪だ。急に雨が降ってくるなんて」
つい愚痴を零す。出勤する前に見たテレビ予報では雨が降るとは言ってなかった。
幸いバイト先に誰かが置いていった傘があったのでそれを勝手に持ち出してきた。これで雨による風邪の心配はなさそうだ、と一安心。
傘越しに雨音が聞こえる。この勢いでは雨というより弾雨みたいだ。
濡れないように縮こまりながら歩く。普段ならこの時間帯は人通りが少ない。更にこの天気では誰も出歩かないだろう。
だけど今夜は例外だった。
何処から人の気配がして俯いていた顔を上げた。
そこにいたのは––––少女だった。
「――――――」
思わず足を停める。艶やかな黒髪に白装束のような服装。雨が降っているのにも関わらず傘も差さずに裸足で立っていた。
視線を合わせたのはほんの十秒足らず。少女は自分が歩いて来た道へ行ってしまった。
思わず止めた足を再び動かす。
すると、ガタンと後ろからモノが倒れたような音がした。
振り返ると先程の少女がコンクリートの壁に倒れかかっていた。
「大丈夫!?」
慌てて傘を捨てると少女の所へ近寄った。雨に打たれるがそんなこと、今はどうだっていい。
身体を持ち上げ、呼吸器を確認してみるがどれも異常はなかった。
安堵したのも束の間。僕の目には有り得ないモノが映っていた。
「――――え?」
すれ違ったときは気づかなかったが骨ばった腕、持ちあげたときに感じた軽い身体。理由は知らないが素人目でも危険な状態が分かる。
こういう場合は119? いやそれとも病院に行った方がいいのか?
「……関わらないで」
右往左往していると下から掠れた声がした。
突然の発言に驚いたのも束の間、その言葉を皮切りに少女は意識を失ったのかダランとしてしまった。
彼女の言葉通りこのまま放置することもできるだろう。
しかし、この冷たさでは死んでしまうかもしれない。
「……悪く思わないでね」
死人のように動かなくなった少女を無理やり背負う。
残された選択肢は一つしかなかった。
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